********** 黄色い薔薇を花束にして **********








なんだか、ずーっとレコーディングしてる。

それが嫌とか、苦痛って訳じゃなくて・・・むしろ楽しいことなんだけど・・・何か足りないんだよね。

何かって・・・・・わかってんだけど・・・・・電話ぐらいして来い、バカ!

そりゃヒロだって忙しいんだろうけどさ・・・・・って、アベちゃんに愚痴ったら

“ アンタの方から電話すればいいじゃない ” って、あっさり言われた。

もっともなんだけど・・・・・僕はヒロみたいに

“ 声が聴きたかったから ” なんて恥ずかしいこと言えない。

寂しいとか、会いたいとか、弱音吐くのも嫌だしね・・・・・・でも会いたい・・・・・。




そんな僕の願いをキャッチするアンテナを、ヒロは持っているらしい。




夕方、スタジオのFAXにヒロからのメッセージが入った。

“ 大ちゃ〜ん、今夜、会いに行くからお腹空かせて待っててね!!! ヒロ☆ ”

なぜケータイじゃなくてFAX?

これは、アベちゃんへの無言のアピールだよね、最初に読むのはアベちゃんだもん。

いつもなら、いきなりなんなのって文句のひとつも言いそうだけど、

最近いい子でお仕事してた僕へのご褒美ってことで、あっさりお許しが出た。 

さっそくヒロへメール。

“ 待ってるねっ ”

本当は語尾にハートでも付けたいとこだけど、恥ずかしいから付けない。

きっとヒロには見えてると思うけどね、でっかいピンクのハートが。






外が暗くなった頃、約束どおり迎えに来たヒロの車に飛び乗った。 行き先はヒロにお任せ。

『何食べに行くの?』

ヒロの顔を見るなり訊く僕の顔をじっと見詰めて、ヒロは車を出そうとしない。

『なーに? 行かないの?』

『あのさー、久しぶりに会ったのに、いきなり “ 何食べに行くの ” は寂しいなぁ・・・・』

なーに言っちゃってんだか・・・・・

『ヒロが連絡くれないから久しぶりになったんじゃないか・・・・』

ちょっと不満げに言ってみたら、ヒロが嬉しそうに微笑う。

『寂しかった?』

寂しかったよ・・・・なんて、僕が素直に言うと思う? 絶対言ってやらないんだから!

黙って俯いてる僕の頬に、ヒロの温かい唇を感じた。

『ヒロッ』

僕は慌てて周りを見回す。 幸い駐車場に人影はなかったけど・・・・・。

『誰かに見られたらどうす・・・・』

僕の忠告なんか聞く気もないらしく、今度は唇にキスをしてくる。

シートに押し付けられるような深い口づけに思考回路は停止して、頭の中に淡いピンクの霧がかかる。

長い口づけで、ぼぅっとしている僕に、ヒロが耳元で囁く。

『拗ねちゃうくらい寂しかった?』

『・・・・うん・・・・』

うっかり頷いた僕に、ヒロが満足そうに微笑んだ。

しまった〜〜〜! やられた〜〜〜! 

鼻歌混じりに車をスタートさせたヒロを睨みつけても、もう遅い。




ヒロが連れて行ってくれたのは、ちょっとオシャレなステーキハウス。

店内は間接照明とキャンドルライトだけで、ロマンティックな雰囲気だけど、ここに男二人ってどうだろう?

でも、メニューを見てる僕に、これとこれがお薦め・・・・とか言ってるヒロは慣れてる感じで違和感もないみたい。

多分、女の子とよく来るんだろうなって思ったら、ちょっと胸が痛い。

そして、それを証明するかのように僕達のテーブルの横を通りかかった、女性二人のうちの一人が足を止めた。

『ヒロ、久しぶり〜』

白いシャツにジーンズというラフな格好の女性がテーブルに手を付いてヒロを覗き込む。

『あぁ、元気だった?』

笑顔で返すヒロに、ちょっとジェラシー・・・・・ちょっとだけ、ね。

仕事はどう、とか、どこどこには最近行ってる? とか、

僕にはわからない会話を交わしながら彼女の手がさりげなく

ヒロの肩に掛かるのを見て、ただのお友達ではないな・・・と直感的に思う。


彼女は僕に気を使ったのか、早々に会話を打ち切ると、ヒロに軽く手を振って店を出て行ったけど・・・・・

ヒロが少し気まずそうに僕を見る。

なぁに? 今のは誰! とか聞いて欲しい? いや、聞いて欲しくないよね。

『ごめんね、今の・・・飲み友達なんだけど久しぶりだったからさ・・・』

『ふぅ〜〜〜ん』

気のない返事をしたつもりだったのに・・・・

『大ちゃん、ほっぺた膨らんでるよ』

笑うヒロを軽く睨みつける。

『そんな大ちゃんも可愛いけどね』

ポツリという言うヒロに、拗ねているのもバカらしくなって一緒に笑ってしまう。




食事はヒロのお薦めだけあって、すごくおいしかった。 

運転しない僕は少しワインも飲んで、ほろ酔い気分で店を出ようとした時

『あ、ヒロォ、偶然〜』

レジのそばですれ違った女性達の一人がヒロを見つけて声をかけた。 またかよ・・・・。

『最近、ぜんぜん連絡くれないのね〜』

ちょっと責めるように言う女の子は、どう見ても20代前半ってとこ。

その子がヒロの後ろに立つ僕に気付いて、いきなり指を差した。

『あ〜! アサクラダイスケだ〜!』

大声出すな! 指を差すな! 呼び捨てにするな! 

ここで喧嘩売るのも大人気ないので言いたいことを全部飲み込む。

そしたらヒロがその子の腕を掴んで店の隅に連れて行くと

『大きな声出すなよ、それから人は指差さない、目上の人は呼び捨てにしない、わかった?』

僕が言いたいこと、全部言ってくれた。 

女の子は、ちょっと首をすくめて、僕をチラッと見るとヒロに向かって

『説教くさ〜〜い』

と、笑いながら店の奥に駆けて行ってしまった。


『ごめんね・・・・』

ヒロが店の扉を開けて、僕を先に通してくれながら小さな声で呟く。

『いや・・・いいけど・・・・あれ・・・彼女?』

もちろん、今も付き合ってるって感じではなかったから「元」って意味で訊いたんだけど。

ヒロは、うーんと首をひねってから答えた。

『つまみ食いはやめましょう・・・って感じ?』

『食っちゃったの?』

『食っちゃいました。 ごめんなさい』

ぺこっと頭を下げたヒロのつむじが可愛くて思わず笑ってしまった。

僕としては、その前に会った女性の方が気になっていたんだけど、それは言わない。

少しのヤキモチは、ヒロが喜ぶの知ってるから、癪だし・・・・・多大なヤキモチは負担になるだけだから・・・・。




『このままスタジオ帰らなきゃいけないの?』

車の中でヒロに聞かれて、ちょっと考える。

アベちゃんは何も言ってなかったけど・・・・仕事はあるし・・・・どうしよう。

『すっごく美味しいデザート、食べたくない?』

『え! なに、なに?』

デザートという言葉に恥ずかしいぐらい過剰反応した僕にヒロが笑って自分を指差した。

『うん? なに? ヒロがどうし・・・・・・ああ! そういうこと?』

デザートがヒロって・・・・お約束過ぎるんじゃない?

『ホントに美味しいの〜?』

疑わしげな僕にも、ヒロは引かない。

『そりゃもう、 極上スウィーツって感じ?』

『スウィーツなんだ?』

二人で大笑いしながら、胸焼けしそうだねと言う僕に、後味すっきりだの、一口で天国へだの、

妖しげなキャッチフレーズを並べながら、ヒロの車はすでに彼のマンションへと進路を取っていた。






マンションに着いて、車を降りるとヒロの後ろを歩くように入り口へ向かう。

するとロビーへの前にいた黒い影が、ヒロを認めて小さく手を振るのが見えた。

またぁ〜? この世の女を全部抹殺したい気分になってくる。

『あれ〜、充? どうしたの?』

ヒロがその影に駆け寄った。

ミツル? 男? 逆光にになってシルエットしかわからなかったけど、近くによると確かに男性のようだ。

僕と同じくらいの背丈で、20歳くらいの青年がヒロを見上げて笑っている。

近くまで来たから誘いに来たんだと言う彼は、ヒロの後ろにいる僕から見てもわかるくらい

長い睫毛に縁取られた黒目がちの瞳が、印象的なエキゾチックで魅力的な顔をしていた。

俳優とか、ダンサーとかかな・・・・と思っているとヒロが僕の肩を押して前に出す。

『あ、知ってると思うけどアサクラさん。 こっちは友達の充』

どうも・・・・と二人で頭を下げあう。

ヒロの “ 友達 ” に会うのは初めてかもしれない。 なんか変な感じ。

『てことで、今夜は先約あるからごめん!』

手を合わせるヒロに、こっちこそ急にごめんねと、笑う顔は、まだ幼さを残していて可愛いなと思う。

その彼の頭をポンポンと叩いて、また今度ねと、ヒロが微笑んだ時、僕の胸がきりっと痛んだ。

彼が、もう!と、ヒロの手を払いのける仕種もなれた感じで・・・・・・なぜか見ていたくなくて僕は目を逸らす。

大きく手を振って走り去る彼に、同じように手を振っていたヒロがやっと僕の方を見て、

行こうかって背中を押したけど、さっきまでの楽しい気持ちは、どこかへ行ってしまってた。




シャワーも浴びず、性急にベッドに押し倒されても、胸の中のもやもやは消えてくれない。

なんだろう・・・・・何故、気分が悪いんだろう・・・・・。

ヒロはそんな僕に気付くこともなく、1枚、また1枚と服を剥いでいく。

何も身体に纏ってない状態になってさえ、気持ちは高揚してくれなくて・・・・・。

『ね、ね、やっぱりシャワー先に・・・・』

『だぁめ、待てない。 このデザートは鮮度が大切だから早く食べてもらわないと・・・・』

そう、いつもならここで笑うとこなんだよね・・・・・なのに浮かない顔の僕に、ヒロが不審がって身体を起こした。

『どうかした? なんか変だよ、大ちゃん』

『うん・・・・・、あのさ、ヒロ・・・』

『なに?』

『あの子・・・・誰?』

自分でも思ってもいなかった言葉が飛び出してきてびっくりする。

でも、口に出してみてわかった。 さっきの子が、ずっと気になっていたんだ。

『あの子?・・・・・・あぁ、さっきお店で会った人? どっちの?』

そうじゃなくて・・・・・と、小さく首を振る。

男の子・・・・と、消え入りそうな僕の声に、ヒロは目を丸くする。

『充〜? 紹介したでしょ、友達だって・・・・彼がどうかしたの?』

『いくつ?』

『年? えーっと・・・・確かオレと一回り違うんだよ、だから・・・22か23か、そのぐらい?』

『よく会うの?』

『そーだねー、いっしょにフットサルとかやったりしてるし、飲みにも行くし・・・』

『ここにも、よく来るの?』

その質問でヒロは、やっとわかったという顔をした。

『大丈夫、中に入れたことはないよ。 ここまで送ってくれたことがあるから場所を知ってるだけで。

 大ちゃんとバッタリなんてことは絶対にないからさ、安心してていいよ』

ヒロ、微妙に勘違いしてるね。

『まぁ、オレら二人が一緒でも怪しまれることはないだろうけどね』

笑ってるヒロに水を差すようで悪いんだけど、そうじゃないんだ。

『じゃあ、ヒロ・・・』

『ん?』

『僕は、あの子にヤキモチ妬く必要はないんだよね?』

ヒロは何を言ってるのかわからないって顔で、しばらく僕を見つめてから・・・・・

『あのさ、大ちゃん・・・・それってオレと充がってこと?』

頷く僕に、ヒロがあきれたようにため息をつく。

『あのさ〜、いくら可愛くたって充は男だよ? そんなことあるわけないじゃん』

あー、やっぱり可愛いって思ってるんだ・・・・・。

『僕も男なんだけど・・・・』

『そうだけど、大ちゃんは・・・・・・・・・』

『僕は?』

『・・・・・大ちゃんは特別だよ』

僕を見下ろして頷くヒロだけど・・・・・それ納得いかないな。

『じゃ、いつか他に “ 特別 ” な “ 男 ” が現れる可能性だってあるってことじゃない?』

『ないね!』

うわ、即答。

『なんでさ、可能性としては・・・』

『絶対にない!』

でも・・・と、まだ食い下がる僕の口を無理矢理のようにふさいで・・・・・四肢の力が完全に抜けるまで離してくれなかった。

潤んだ瞳で、ぼんやり見上げている僕を見て、ヒロが可笑しそうに微笑う。

何が可笑しいの?

『だって、男にヤキモチ妬くなんて思ってもいなかったからさ・・・・オレだよ? 間違ってもそれはないって』

言い聞かせるように、ゆっくり喋るヒロだけど・・・・



『僕とは間違ったじゃん・・・』



『・・・・・大ちゃん、怒るよ』



・・・・・そんな怖い顔しないでよ・・・・・。



『そんなにオレが信用できない?』



低い声で問うヒロに、僕は髪が枕に当たってパサパサと音を立てるくらい思いっきり首を振ってみせる。

違う、信用してないわけじゃなんだ・・・・・・・・・これは・・・・・ただのヤキモチ。

ヒロの気を引くものすべてにジェラシーを感じるなんておかしいかもしれないけど・・・・・そんな自分は嫌だけど・・・・・・。

『とにかく、これだけは信用して・・・・男は “ アリエナイ ” から』

そう言って微笑むヒロに、僕も微笑み返す。

『じゃ・・・・男は除外しておく』

『うん、大丈夫!』

『女は?』

う・・・・っと言葉を詰まらせるヒロが可愛くて・・・・・・憎らしい。




その夜のヒロは、さっきの仕返しのつもりなのか、焦らして、焦らして・・・・なかなかイかせてくれなくて・・・・

喘ぎながら、何回も “ 意地悪 ” とヒロをなじったけれど、 その十倍も “ 愛してる ” を囁いてくれた。





これからもヒロの周りの人に、ジェラシー感じるのは止められないけど・・・・



でもヒロは僕のだから。



うん、大丈夫、女の子の一人や二人・・・・・三人や四人・・・・・えっと・・・・それぐらいでやめといてね、ヒロ・・・・・・。










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end ----------









なーんか理屈ぽくないですか?・・・って、自分で書いたくせに・・・・(^_^;
大丈夫、ヒロは大ちゃんのものですよ(いろんな意味でね)

※「黄色い薔薇」の花言葉は、皆さんご存知ですよね? そう「嫉妬」です(笑)

                                       流花
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