***** a key *****







『ヒロのバ〜カ・・・・・』

ひとりベッドに寝転んだまま、ダイスケが呟く。

窓の外はまだ暗いけれど、夜明けは近かった。

ベッドから微かに香るヒロの匂いに包まれて、ダイスケはゆっくり目を閉じる・・・・。







その日は、久しぶりのヒロとの再会だった。

ラジオの収録という仕事ではあったけれど、ヒロに会えることに変わりはない。

前に会ってからもう1ヶ月以上たっていたし、その時も慌しい逢瀬だったから今日をとても楽しみにしていた。

ヒロの笑顔を見ただけで、ダイスケはその10倍くらいの笑顔になってしまう。

収録の間中、舞い上がっているのが自分でもわかって、ダイスケは恥ずかしくなる。

落ち着かなきゃ・・・・・・思っているのに、いつの間にかはしゃいでいる。

1時間なんて、あっという間で・・・・次の仕事があるというヒロに、ダイスケは小さくため息をつく。



廊下に出たヒロが、送りに出てきたダイスケを手招きしてそばに呼ぶと、その手に何かを握らせた。

ダイスケがそっと手を開くと、銀色の鍵。

『なぁに?・・・・・・あ、引っ越したんだっけ』

うんうんと頷くヒロを見上げて、ダイスケは首を傾げる。

『いいの? 貰っても・・・・・』

曖昧な笑みを見せるダイスケに、今度はヒロが首を傾げる。

『いいよ・・・・・てか、いらないの?』

『だって・・・・前の鍵もあまり使わなかったし・・・・僕が持ってても意味あるのかなって・・・・』

声がどんどん小さくなっていくダイスケにヒロが苦笑いを浮かべる。

『大ちゃんは持っていたいの? いたくないの?』

少しキツイ言い方をするヒロに、ダイスケは持っていた鍵を握り締めた。

『・・・・持っていたい・・・・』

『オーケー、なら持っていなさい』

そう言って笑うヒロを見て、ダイスケの顔もほっとしたように綻ぶ。

『急に行っちゃうかもしれないよ?』

『いいよ、いつでも来て!』

『本当に?』

大きく頷きながらも、マネージャーに呼ばれて帰ろうとするヒロをダイスケが慌てて引き止める。

『ヒロ〜、これどこ?』

鍵を振ってみせるダイスケに、ヒロは一瞬キョトンとしてから・・・・・弾けたように笑い出した。

『そ・・・っか、ごめ・・・ん、住所教えてなかったね・・・』



メモを渡して笑顔で手を振るヒロを、ダイスケは同じ笑顔で見送りながら手の中の鍵を握り締める。

ひとりで行くことなんて、きっとないヒロの部屋。

ヒロだって、ダイスケが来ないだろうと知ってて鍵を預けているに違いない。

特に今は仕事も忙しくて、これが終わった後も深夜過ぎまでスタジオに引きこもることになる。



控え室に行くと、置いてあるバッグからキーホルダーを取り出し、ヒロの以前の部屋の鍵を外して新しいのを付けてみる。

これも前の鍵同様、お守りのようにここについているだけで、使用されることは数回・・・・あるかどうか。

ヒロの都合なんか考えないで、気軽に遊びにいける性格ならよかったのに・・・・と、ダイスケは自嘲気味に口を歪める。

“ いつでも来て ” って、本当にいきなり行ったら困るくせに・・・・・・・・・・困る・・・・・かな?

ダイスケは鍵を見つめて一大決心をする。






スタジオでの仕事が終わった時、すでに深夜を回っていて、送ってくれるというアベを断ってワンコだけを託し、

自分はタクシーを呼ぶと、運転手にヒロから貰ったメモを見せた。

今日貰った合鍵で、今日押しかけたら吃驚するかな・・・・・そんな悪戯心もあったけど

ここで勢いをつけておけば、この先行き易いかもしれないという目算。

そして、もうひとつ・・・・・いきなり行ってもヒロが本当に歓迎してくれるのか、賭けるような気持ちもあった。






深夜の空いた道を30分ほど走って着いたマンションを見上げたダイスケは、大きく息をついて足を踏み出した。

こんな時間だから、すでに寝ているだろうと、そっと鍵を回してドアを開ける。

女性物の靴なんかあったらシャレにならないな・・・・と、少しドキドキしながら玄関を見たけれどそんなこともなく

明らかにヒロのだろうという靴が2足並んでいるだけなのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

初めての部屋で、照明のスイッチの在り処さえわからないから手探りで奥に進み、見つけたドアを開けてみたけど誰もいない。

寝室を探して、さらに進むとリビングに辿り着いた。

そこにもうひとつドアを見つけて、ここが寝室に違いないと、静かにドアを開けてみる。

部屋の半分の大きさを占める大きなベッドが目に飛び込んできたけど、そこにもヒロの姿はなく・・・

『うそ〜〜〜・・・・いないの〜〜〜?』

思わず出てしまった自分の声が、ガランとした室内に響いた。

一気に気が抜けたダイスケは、部屋中の照明をつけて歩く。

『へぇ・・・・・』

以前の部屋より、もっとシンプルになっている。 いや、引っ越してきたばかりだから、まだものがないせいか・・・・。

見回しながら無意識に女性の影を探している自分に気がついて苦笑いする。

大きなソファーを見つけて座ると、ゆっくり凭れて天井を見上げた。

ヒロがいないのなら帰るべきか、それともこのまま帰りを待とうか・・・・・・。

でも答えはすぐに出る。

ここで帰ってしまったら、なんのために決心したんだかわからない。 待っていよう。

立ち上がって、脱いだジャケットをソファーに投げ置いて小走りに寝室に駆け込むと、大きなベッドにダイブする。

スプリングを試すように、座ったまま2、3度跳ねてから大の字に寝転んだ。

ひとり暮らしなのにどうしてこんな大きなベッドがいるんだろう・・・・・・ダイスケの素朴な疑問。

『絶〜〜〜対、女だ・・・』

口に出して、少し落ち込む。 

そんな気持ちを振り払うように、昨日のラジオ収録の時のヒロを思い出してみる。

仰向けになって、ひとり思い出し笑いしていて、ふと“ 振付師 ”のフレーズに引っかかった。

知り合いの振付師にダンスを習い始めたと言ってたヒロ・・・・・それは・・・・・男性? それとも・・・・。

『絶〜〜〜対、女だ・・・』

再び落ち込み始めた自分がおかしくて薄く笑う。

『マジで、Mかもしれない・・・・・』

きゅっと、自分を抱きしめて胎児のようなポーズで目を閉じると、微かにヒロの匂いを感じる。

『ヒロのバ〜カ・・・・・』

小さく呟いたのを最後に、ダイスケの意識は霧の中に沈んでいった。






何かの気配を感じて、ダイスケが薄っすら目を開けるとバスローブ姿のヒロが部屋に入ってきたところだった。

いつ帰ってきたんだろう・・・・身体を動かそうとして、ダイスケは自分の身体に毛布が掛けてあることに気付く。

『あ、目ぇ覚めちゃった?』

ダイスケに起き上がる間を与えずヒロがベッドに腰を下ろすと、ダイスケの乱れた前髪を指で持ち上げるようにしてその額にキスをする。

『・・・ごめん・・・寝ちゃって・・・・・あ、これ・・・』

毛布を摘まんだダイスケにヒロが微笑う。

『寝るのはいいけど、ベッドの上じゃなく、中に入って寝ないと風邪ひいちゃうよ?』

『うん・・・寝るつもりなかったんだけどね・・・・・今、何時?』

ヒロが枕元の方を見て、もうすぐ5時・・・・と教えてくれた。

『ええ? もう朝じゃん』

起き上がろうとしたダイスケの肩をヒロが緩く押さえつけてベッドに戻す。

『大ちゃん・・・何しに来たの?』

それは決して責めるような言い方ではかなったけど、ダイスケはそう受け取ってしまう。

『ごめん・・・いきなりで・・・・あの・・・』

『そうじゃなくて・・・・ごめん、言い方が悪かったかな・・・・どうして来たの?』

“ 何しに来たの ” と “ どうして来たの ” の違いがダイスケにはよくわからなかったけれど、ここに来た理由ならひとつしかない。

『会いたかったから・・・・』

『・・・・会ったばっかりだよ?』

少し意地の悪い言い方に、それがどうしたと言わんばかりにダイスケが唇を尖らせるとヒロが笑い出す。

『だぁいちゃん・・・・・だからさ、顔見るだけが目的じゃないよねってこと』

やっと、ダイスケにもヒロの言いたいことが伝わって・・・・・

『違っ・・・・そういうんじゃないって!』

『え〜? ベッドで待ってたくせに?』

その言葉に、再び起き上がろうとするダイスケにヒロが伸し掛かってきて反対に身動きが取れなくなってしまった。

『ヒロォ・・・・ん・・・』

抗議する口を、温かい唇で塞がれて・・・・・ダイスケの腕もそれに応えるようにヒロの背中に回っている。

くちづけは思ったよりもずっと深く、ダイスケの身体は少しづつ反応し始めて、

それをヒロに知られたくなくて身体を捩ってみたら、同じように反応しているヒロに気がついた。

『ヒロ・・・・早いね・・・』

ちょっと笑ったダイスケに、ヒロの指が反撃を開始する。

『あっ・・・・』

『人のこと言えるの? 大ちゃん・・・』

服の上からなのに、ヒロの指の動きに合わせて素直すぎるくらい熱くなっていく自分を止められない。

ダイスケは腰を浮かせるようにして、服を脱がせてくれるヒロを手伝いながらそのバスローブの紐を解いた。

『わぉ・・・大ちゃん、元気だね〜』

露わになったダイスケ自身を見て微笑うヒロの首に、恥ずかしさを隠すように抱きつく。

『何時振り・・・・だっけ?』

ヒロがダイスケを抱きしめて、その首筋に唇を這わせながら呟く。

もちろん、以前に抱き合った時期を訊いているのはダイスケにもわかっていたから

『ヒロとやってから・・・ってこと?』

何気なく返した言葉に・・・・・・・ヒロの動きがゆっくり止まり、身体を離してダイスケを見下ろす。

『・・・・・な・・・に・・ヒロ?』

少し驚いたような顔で見下ろしているヒロに、ダイスケが戸惑う。

『・・・そう・・・・オレとやったの・・・・・いつ?』

『え・・・と・・・・1ヶ月・・・・あ、もっと前だったよね?』

一生懸命思い出そうとしているダイスケにヒロが頷きながら・・・・・

『そうだね・・・・じゃ、最後にやったのはいつ?』

『・・・え? だから1ヶ月以上・・・』

『オレとじゃなくて・・・・』

ヒロとじゃなくて?・・・・・・言葉の意味がわからずに黙ってしまったダイスケに

『ヒロとやってから・・・って、さっき言ったよね?』

思い出させるようにヒロが言うのを聞いて、小さく頷く。

『言った・・・けど・・・・それが・・・・あっ・・』

やっと思い当たったダイスケだったが・・・・・ちょっと不満げにヒロを睨みつける。

『僕がヒロ以外とやるわけないじゃん・・・・・ヒロじゃあるまいし・・・・』

『本当に?』

ヒロじゃあるまいし、の部分を否定しないで訊いてくるヒロにちょっと傷つきながらもダイスケは大きく頷く。

『で、ヒロは何時振りなの? 誰かとやってから・・・』

そんなの訊いたって自分が傷つくだけなのはわかっているのに、思わず口から出てしまう。 なのに・・・

『忘れた』

あっさり言い捨てて、ヒロは再びダイスケのうなじに顔を埋めようとするから・・・・・

『ずるい! ずるい! 絶対ずるい!』

ヒロの胸に手をついて突っぱねるダイスケにヒロが苦く笑う。

『ヒロがどっかの綺麗なお姉さんとやってんだったら、僕が誰かとやったって構わないはずだよね?』

ずっと言えないでいた言葉・・・・・・すべてが壊れてしまいそうだったから・・・・。

“ 構わないよ、好きにすれば? ” なんて言われたら立ち直れそうもない。

でもヒロは、まるで知らない外国語でも聞いたような顔でダイスケを見ていた。

またはぐらかす気なのかと、黙ってヒロの言葉を待っていたダイスケだが、その沈黙の長さに耐え切れなくなる。

『・・・・ヒロ?』

いつのまにか、ヒロは自分の世界に入ってしまったみたいで、その声も届いていないようだ。

『・・・ねぇ・・・・ヒロ・・・・どうしたの?』

不安になったダイスケが起き上がってヒロの腕を揺すると・・・・・

『あ・・・ごめん・・・・なんでも・・・ない・・・』

微笑って見せたいらしいが、うまく笑顔が作れていない。

そんなヒロにダイスケの不安が募っていく。

『ヒロ? 変だよ? 怒ってる?』

『え、いや・・・・・・ねぇ、大ちゃん・・・・・オレが好き?』

突然、言い出すヒロにダイスケはパニックになりそうだ。

『急にどうしたの? 好きに決まってるよ。 知ってるでしょ?』

『でも、オレ以外の誰かとやりたいんだよね?』

『えぇ?! 違うって! 僕以外の人とやってんのはヒロでしょ?!』

『だから、大ちゃんもやりたいんだよね?』

どうやら冗談ではなく、真顔で訊いてくるヒロの真意がダイスケにはわからない。

『違うよ・・・・冗談だよ。 僕はヒロだけでいい・・・・・・・ヒロが・・・いい』

自分の言った言葉でダイスケは改めて気付く。

ヒロ以外の人と付き合いたいなんて思ってもいないこと。

ヒロが誰と、どこで、何をしていても自分の元へ帰ってきてくれるならそれでいい・・・ってことに。

『本当に・・・・? オレだけ?』

なんだか泣き出しそうな顔のヒロに、ダイスケは何度も頷いてみせる。

『ヒロだけだよ。 好きなのはヒロだ・・・・っ・・・』

ダイスケの愛の言葉は、途中からヒロの唇に吸い取られ、再びベッドに倒される。

いつもより優しい愛撫を受けながらも、結局誤魔化されたような気分のダイスケだったが、それでいいと思った。

好きだからといって、ヒロのすべてが欲しいわけじゃない、 ヒロを思いのままにしたいわけでもない。

ヒロがヒロだから好きなだけ・・・・・・悔しいけど。


『んっ・・・・』

どんなに愛撫が優しくても、入ってくるときの異物感だけはどうしようもなく、ずり上がるダイスケをヒロが引き戻す。

ダイスケが閉じていた瞳を、そっと開くと、切なげな表情のヒロと目が合った。

その口が、声を出さずに何か呟く。

『・・・な・・に? ヒロ・・・なんて・・・・んっ・・あっ・・あぁっ・・・』

動き始めたヒロに、ダイスケの問いかけは喘ぎに変わっていく。

切れぎれに声を上げるダイスケが、シーツを掴むその指をヒロの手がそっと包み込む。

再び閉じられたダイスケの瞳に、ヒロの表情は映らず・・・・・・・


その心の中の小さな変化に気付くこともない。











---------- end ----------










なんといいますか・・・・・内容がとっちらかってて、ごめんなさい。
そろそろ、このシリーズも進展しないとねって思って書いたんですが・・・・・・・意味不明?(^_^;
エッチシーンすら中途半端でごめんなさい(苦笑) いつかリベンジしたいです。 エッチのみ?(笑)

                                             流花
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