・・・ 観覧車 ・・・

* リクエスト内容・・・・・観覧車の中で・・・

 

ドライブを続けて数時間、西の空が少し茜色に染まり始めていた。

隣の助手席では大ちゃんが ずっと窓の外を見ていてこちらを見ようともしない。

 

 

なんの目的もないドライブだった。 空気と景色が綺麗なところへ行こうと、ただそれだけ。

もう昼も過ぎていたし、ちょっと行って、日が暮れる頃には東京に戻るはずだった。

海にするか山にするかで、山に決定したのは確かにオレだけど、道に迷ったのもオレのせい?

『ヒロ、やっぱりさっきの道、右に行ったほうがよかったんだよ』

『今頃言われても・・・・もう随分走ったけど・・・・戻る?』

ま、オレの言い方もちょっと意地が悪かったけどさ、拗ねるなよ〜、大人なんだから・・・。

道なき道みたいなところを走っているとカーナビも役立たずで、ついイライラしてしまい、

いつもなら大ちゃんの御機嫌くらいすぐ治せるんだけど、そんな気力も今はない。

『あっ・・・・』

大ちゃんが窓の外を指差して振り返る。

『ほら見て、ヒロ、観覧車!』

車のスピードを落として指差したほうを見ると、すぐそばの山の上に観覧車の一部が見える。

『へぇ〜? こんなとこに遊園地なんかあるのかなぁ・・・』

『ねぇ? すぐそば・・・だよね? 行ってみない?』

本気?大ちゃん。 ますます帰る時間遅くなっちゃうけどいいの?

喉まで出かかった言葉も、大ちゃんの好奇心いっぱいのキラキラした瞳にぶつかって引っ込めてしまった。

お姫さまの御機嫌が治るなら、遊園地でも動物園でも行っちゃいましょう。

『オーケー、そこの道上がれば行けるかな?』

獣道に毛の生えた程度の細い道にハンドルを切る。 

この道で合っていますように・・・と神様に祈りながら・・・

 

*

 

オレのささやかな祈りが通じたのか、山の上の少し開けた場所に出ると、目の前に古びた鉄の柵が見えてきた。

ギリギリの場所に止めて、車を降りる。

その柵は近くで見ると古びているというより朽ち果てている感じで、すでに柵の役割は果たしていないようだ。

『こっから中に入れちゃうね・・・・門はどこなんだろ?』

入れちゃうねって・・・・大ちゃんすでに入ってるじゃない。

『いいのかなぁ・・・?』

そういいながら すぐ近くにある観覧車を見上げる。

『あれ・・・・・大ちゃん、動いてないよ、観覧車・・・・・・あ?大ちゃん?』

大ちゃんの後姿は、すでに十数メートル先の林の中に入ろうとしているところだった。

振り返って、早く早くと手招きされて、オレも慌てて後を追う。

小さな林を抜けたところに観覧車はポツンと置いてあった。 そう置いてあるって感じ。

今時の大きなものではなく、子供の頃に乗っていたような小さな観覧車。

『やっぱり動いてないよ、大ちゃん・・・・だいたいさぁ、観覧車以外何もないって変じゃない?』

『でも、係りの人がいるよ?』

本当だ・・・観覧車のそばにチャコールグレイのユニホームっぽい服を着たおじさんが立っている。

オレたちが近づくとにっこり笑って頭を下げた。

『いらっしゃい、乗りますか?』

この怪しげな観覧車に? しかし躊躇ってるオレの隣で大ちゃんが話しかけている。

『ここ、なんなんですか? 観覧車以外何もないんだけど・・・・』

『そうですね、変ですよね』

相変わらずニコニコしているおじさんが言うには、ここには以前小さな遊園地があったんだけど

村の過疎化で経営できなくなって閉鎖したらしい。

でも子供達の要望で観覧車だけは残して人が来たときだけ動かしている。

『でも、それも、もうおしまい。今月いっぱいでコレも取り壊すんです』

老朽化が進んで、危険になる前にね・・・・。記念に乗って行きますか?

大ちゃんと顔を見合わせて ちょっと考える。

確かに古そうだけど・・・危険性はないのかな・・・・。

『う〜ん、これくらいの高さなら大丈夫かな』

どうやら大ちゃんの心配は“危険度”ではなく“高度”だったらしい・・・・。

『いくらですか?』

大ちゃん、すっかり乗る気だね・・・・・・まぁせっかく、ここまで来たんだから・・・。

一人100円ですと言う、おじさんの言葉に大ちゃんがオレを見る。

はいはい、オレが払うのね。 

ポケットから小銭を出して払っている間に大ちゃんは一人でちゃっかりゴンドラに乗り込んでいた。

オレが乗り込むと、おじさんはすぐに調整室のようなところに入ってスイッチを入れたようで、軽い衝撃があって観覧車はゆっくり動き始めた。

大ちゃんが調整室のおじさんに手を振っている。 小さな観覧車だから1周3分くらいかな・・・・。

まわりの木々より高い位置まで来ると麓に小さな村が見えた。

『あぁ・・・あっちにあったのかぁ・・・』

『あそこまで行けば帰れる?』

『うん、大丈夫、ちゃんと帰れるよ』

『よかった〜、・・・・・ねぇ、観覧車に乗ってよかったね』

嬉しそうに微笑む大ちゃんに素早くキスをする。

『ヒロ!』

『だぁれも見てないって』

ゴンドラは 頂点に差し掛かったとこだったから下のおじさんからもまったく見えない。

『だったら・・・・ちゃんとしよっ!』

そう言うと、大ちゃんは目を瞑ってキスを待っている。 雛鳥じゃないんだから・・・・・・でも、可愛い・・・・。

お言葉に甘えて、抱き寄せて唇を重ねる。

大ちゃんの中は さっき車で舐めていたミントキャンディーの味がした。

唇を離すと、大ちゃんはぽや〜っとした顔で微笑む。

う・・・・・・、オレは理性を総動員して、無理やり外の景色に目を移した。

観覧車の中じゃ何も出来ないんだから、そういう無防備な顔はやめろって・・・・。

『う・・・・・、大ちゃん、空綺麗だよ』

さっきまで茜色一色だった空が、少しづつ菫色に変わり始めてて微妙な色合いを見せている。

ゴンドラの手摺りにしっかり捕まって、大ちゃんも空の色に見惚れていた。

 

地上に降りると、愛想の良いおじさんに手を振って、小走りに車に戻った。 あたりはかなり暗くなっている。

急いで、村まで降りて道を訊かないと・・・・・・大ちゃんは明日も仕事が詰まってるから早く帰してあげなきゃ。

『ねぇ、ヒロ・・・』

さっきから口数の少なかった大ちゃんがシートベルトをしながら不思議そうに訊いてくる。

『さっきの観覧車の人・・・帰るときになんて言ってた?』

観覧車? あのおじさん? 何かいってたか?

『う〜ん・・・、さよなら・・・とか、ありがとうございましたとかじゃなかった? よく憶えてないけど』

早く帰らなきゃって焦ってたから、何も聴いてなかった気がする。

『僕の聴き間違いかもしれないんだけど・・・・・』

『うん?』

『・・・・・お幸せにって・・・・』

すでに車を発進させていたので、大ちゃんの顔はチラッとしか見られなかったけど冗談ではないらしい。

『キスしてるとこ・・・見られたのかな?』

不安そうに言う大ちゃんに、まさかぁ・・・と笑って返す。 あの位置でそれは無理だろう。

『じゃあ、なんでお幸せになの?』

結局 大ちゃんの聞き違いってことで、この話は終わった。

 

*

 

村に着くと、酒屋さんが開いてて、そこで道を訊くことにした。

オレが道を訊いてる間に大ちゃんは店でお菓子や飲み物を買っている。

トイレも貸してくれるというので、大ちゃんが店の奥に消えていったあと、店先でブラブラしているオレに

さっき道を教えてくれたこの店の奥さんが、お茶を出してくれた。

『あ、すみません・・・』

いいえ〜、大変だったですね〜と笑ってくるから、何か話さなきゃと、観覧車のことを持ち出した。

何故か奥さんはオレの話を真剣な面持ちで聞いてたんだけど、終わるとすぐにこう訊いてきた。

『そこの係りのおじさん、最後に “お幸せに” って言いませんでしたか?』

ちょうど大ちゃんが戻ってきたので今の話をすると、やっぱり〜?と笑う。

『ほらね、ヒロ。 聴き間違いじゃなかったんだよ』

得意げな大ちゃんの隣で、奥さんは神妙な顔をしている。

『あのおじさん、いつもそう言うんですか?』

オレが訊くと奥さんは、私は見たことないから・・・・と首を振る。

『そうなんですか? 随分古いとこだったから、この辺の人ならみんな知ってるのかと思ったんですけど・・・』

すると奥さんは笑いながら・・・

『私、この村の生まれですけど この辺に観覧車とか、ましてや遊園地なんて一度も出来たことないですよ』

何言ってるんだろう、じゃあ あの観覧車はなんだったんだ?

『でもね、何年かに一度、夕暮れ時に観覧車が現れてそれに乗った二人は幸せになれるって話はあるんですよ』

奥さんの言葉に大ちゃんが困惑したようにオレを見た。

『私の母が昔、父と乗ったんです。 まだ二人とも高校生だったそうなんですが・・・・』

二人の話は誰にも信じてもらえず、狐か何かに化かされたのだろうと言われていた。

しかし、それから十何年経って隣の町の若い男女が同じ体験をして、何かあるのかも知れないと騒がれたらしい。

その後、みんなで山を探索したが何も見つからず・・・・・。

『体験した人の話は みんな内容が同じで・・・・最後には必ず、“お幸せに” って言われてて・・・。

 この近辺の人間しか知らないことですけど・・・・・・でも・・・・・男同士で乗られた人たちは初めてですよ、きっと』

男女で乗った人たちは必ず結婚しているんだけど、男同士だと何があるんでしょうね・・・・・と奥さんが不思議そうに呟く。

『さぁ・・・・』

首をひねって苦笑いして見せたものの・・・・・内心ひやひやしていた。

『まさか、結婚はないもんねぇ〜?』

大ちゃん、冗談で言ってるとは思うんだけど・・・・・・すっごく嬉しそうにみえるのはオレの気のせい?

『結婚したらびっくりだよね〜』

こうなったら笑うしかない。 オレたちの笑いにつられて奥さんも笑い出した。

『とにかく幸せになれるってことですから、よかったじゃないですか。 道に迷った甲斐がありましたね〜』

 

奥さんにお礼を言って車に乗り込む時、観覧車のあった山を見上げたけど、真っ暗な山には何も見えなかった。

薄気味悪さと高揚感の入り混じった変な気持ちを抱いたまま、国道を目指していたんだけど・・・・・大ちゃん?

鼻歌混じりで、今買ったばかりのポテトチップスの袋を開けている・・・・・上機嫌だね。

ふふふ・・・って、笑いながらポテトチップ食べるのはやめなさい。

『結婚かぁ・・・・・』

ボソッと呟く大ちゃんに、それはないでしょ・・・とも言えず・・・。

『あ・・・』

『何、大ちゃん』

『ヒロ、今、結婚なんてあるわけないだろって思ったでしょ?』

え・・・・なんでわかったんだ?

『やっぱりね・・・そんな顔したもん。 ヒロはすぐ顔に出るから』

そうかなぁ・・・・。

『そっか・・・ヒロは僕となんか結婚したくないよね〜〜〜』

今まで上機嫌だったのに、どうしてこうなるかなぁ・・・・。

『そんなこと言ってないでしょ、男同士でそれは無理なん・・・』

『したくないんだ!?』

『したい! すっごくしたい!』

勢いにつられて返事をしたら、大ちゃんがオレの顔を覗き込んで、にやっと笑った。

『何が“したい”の?』

う・・・・・・だぁいちゃん・・・・?

『ヒロ、や〜らしいなぁ・・・・』

ポテトチップスの袋を抱えて笑い出す大ちゃんが可愛いので、もういいや・・・と思いながらも・・・・

『オレはいやらしいからね〜・・・・だから、それ以上笑ったら犯す!』

釘をさしたつもりだったのに、反対に受けてしまったらしく笑いに拍車をかける。

幸せそうな大ちゃんの笑い声を聴きながら、東京までの道のりがもっと長ければいいのに・・・と勝手なことを考えていた。

 

 

---------- end ----------

 

 

CAN-DEEさん、こんな感じでいかがですか?

リクエストとは微妙に違ってしまってごめんなさいです。

うちの二人は初めてのドライブに行くことが出来ました(*^^*)

なんだか書いてて、楽しかったです♪ 外もいいもんだ(笑)

最近「大ちゃん可愛い病」にかかってる 流花 でした(^_^;

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