The happy condition  いつか王子様が・・・・(11)







『ヒロ・・・遅い・・・・』

ダイスケの目が据わり始めている。


今夜は仕事が一段落したこともあって、スタッフ一同、久し振りに臨時の飲み会ということになった。

私の知り合いの店で、個室になっているので、みんな気兼ねなく飲める。

ヒロは事務所の人間じゃないけど、ダイスケの希望で声をかけてあるんだけど、

約束の時間から、すでに1時間以上が経過しており、ダイスケのご機嫌はかなり悪くなっていた。


『仕事が忙しいんじゃないの?』

別にヒロのフォローをする義理はないんだけど、不機嫌なダイスケの相手は避けたい。

『だったら来るなんて言わなきゃいいんだ』

すでに口調が駄々っ子のそれに近い。

『もうすぐ来るわよ。 ケータイに連絡ないの?』

さっきから、テーブルの上のケータイを3分置きに確認しているのは知っていた。

『ない。メールは送ったけど返事ないし、電話は繋がらないし・・・・』

ケータイに罪はないんだから、そんなに睨まなくても・・・・。

『やっぱり仕事で電源切ってるのよ』

『本当に仕事だか、どうだか・・・・』

ぶつぶつ言いながら、頬を膨らませているのが20歳の坊やなら許せるんだけどね。

仕事のこと以外、特にヒロが絡んでくると子供になっちゃうのはなんとかしてほしい。


『そ〜ね〜、女かもね〜』

ま、このぐらいの意地悪は許されるでしょ、さっきから愚痴聞いてやってんだから。

・・・・・・・え? うっそ〜! こんなことぐらいで泣くか〜!?

私の一言に、瞳を潤ませているダイスケを見て、思った以上にアルコールが回っていることに気がついた。

『ちょっと、ダイスケ・・・・いったいどれだけ飲んだの?』

どうやら、ヒロが来ないことでかなりピッチが上がっていたのだろうけど・・・・まずいなぁ・・・・。

この泣き虫の酔っ払いを、どうやって処理しろと?


『ねぇそろそろ帰ろうか? このままだとここで寝ちゃうわよ?』

とんでもないこと言い出す前に、ここから連れ出さないとね。

『だって・・・・ヒロがまだ来てないもん』

『だから〜、きっと仕事でこられないんだってば。 ね、今夜会えなくても死ぬわけじゃないでしょ?』

『やだ! 会えなきゃ死ぬ!』

この野郎〜! なら死んでみろ!・・・・・とは言えないけど・・・・。

『きっと仕事先のカワイ〜女性スタッフに、いっしょにお食事しましょ〜とか誘われて

 ヒロのことだから、デレデレとついていったんじゃないの? だから今夜はこないと思うな〜』

思いっきり優しい声で意地悪を言ってやった。

いつものように、倍くらいの攻撃が返ってくると思って身構えてたら・・・・ええ〜!? 泣いちゃうの〜!?

もともと潤んでいた瞳から、ついに涙が溢れ出して・・・・こりゃ完全に酔ってるわ。

『お、女と・・いっしょ・・・なの?』

そんなポロポロ涙零しながらきかないでよ。 

『そうそう、だからもう帰ろう?』

背中に突き刺さるスタッフ連中の視線を感じながら、涙を拭いてあげようと取り出したハンカチをダイスケは振り払うと、

ここにはいないヒロに悪態をつき始めた。

『なんだよ・・・ヒロのバカ・・・・そんなに女がいいなら・・・・もう、来るな・・・・』

鼻を啜ってる姿は、どう見ても38歳の男には見えない。

『そうだ、そうだ、別れちゃえ〜』

私の無責任発言に、ダイスケの涙腺は完全に壊れてしまったらしく、ついに手放しで泣き出した。

『そんなん、やだ〜!』

いや、私も本気で言ったんじゃないってば・・・・もう! 私が泣きたい!



『大ちゃん? どうしたの?』

後ろから聞こえてきた声に、びっくりすると同時にホッとする。

ダイスケに駆け寄るヒロが、この時ばかりは救いの神に見えた。

『ひろぉ〜』

周りなんてまったく見えてない酔っ払いがヒロに抱きついた。

『大ちゃん・・・・なんで泣いてるの?』

ダイスケの隣に座ったヒロが、抱きしめた背中をポンポンとやさしく叩く。

『だぁ・・・て、ヒロが・・・女・・・ご飯食べ・・・行っちゃうから・・・』

嗚咽混じりのダイスケの言葉に、ヒロが目を丸くして私を見た。

はいはい、私が言ったんですよ。

苦笑いしてみせると、ヒロも笑いながら私を軽く睨んだ。

『そんなとこ行ってないってば。 ちゃんとここにいるでしょ?』

虫唾が走るほどの甘い声に、ダイスケはちょっと安心したようだ。

『本当? 行ってない?』

『行ってない、行ってない、遅れただけだよ、ごめんね、だから泣き止んで・・・・ね?』

子供をあやす父親の図って感じね。

しっかし、ヒロの言うことだけは素直にきくダイスケにちょっと腹が立つ。

『アベちゃん、大ちゃんもう帰した方がいいんじゃない?』

そんなこと、アナタに言われなくても、さっきから言ってるんですけどね。

いつも酔っ払わないダイスケがこんなになったの誰のせいだと思ってんのよ。

『ダイスケ〜、ヒロが帰っちゃうって』

間違ったこと言ってないわよね、ちょ〜っとニュアンスが違うかもしれないけど。

案の定、落ち着いていたダイスケが再びヒロにしがみつく。

『なんで帰っちゃうの〜!?』

『や、大ちゃん、そうじゃなくて・・・・・アベちゃん!』

な〜によ? 遅れてきたアナタが悪いのよ。 少しは苦しめ!

『大ちゃん、いっしょに帰ろう、ね?』

『いっしょ? 置いてかない?』

『うん』

ちっ、宥めるのが早いわね。 面白くない。

でもって、なんでそんなにぺったりくっついてるのよ?

見ているうちに、私のお尻から黒い尻尾が生えてきた。

『よかったわね〜、ダイスケ。 少なくともあと2年くらいはヒロも側にいてくれるわよ』

2年≠ノ反応した二人が、不思議そうに私を見る。

『なぁに? だって、ヒロも40歳過ぎた男に興味はないでしょ?』


それは、つい先日、ダイスケと話していたことだった。

なんの話から、そんな話題になったかは忘れてしまったけど

ヒロも若い子がいいに決まってるるよね〜=@

ダイスケが愚痴るように言っていたので、年齢のこと少なからず気にしているんだと知った。

でもその時は笑っていたんだけどね。


ダイスケは私からヒロに視線を移すと、本日、最大級の涙の粒を零して

『あと・・・2年?』

これ以上ないくらいの不安げな声で問いかけた。

『大ちゃん、何言ってるの? そんなことあるわけ・・・・・って、泣かないでってば〜』

よしよし、困ってるね、そうこなくちゃ。

『アベちゃ〜ん! いい加減にしてよ、大ちゃん泣きっぱなしじゃん』

だぁって、あやすのは私じゃないんだもの、楽しくって。

『キスのひとつでもしてやれば泣き止むんじゃない?』


もちろん、冗談で言ったのよ。 なのにこのバカ!


涙で濡れたダイスケの頬を指で拭ってやると、そのまま両手で顔を挟むようにして、その唇に・・・・

『ちょ・・・・・っと・・・・』

慌てて振り返ると、これまた慌てて視線を逸らせるスタッフたち。

お願い、見なかったことにして!

私は、すっくと立ち上がって自ら二人とスタッフを隔てる壁になる。

ヒロに、いい加減にしろと言いかけて、目の前の展開に思わず目を閉じた。

なんでこんなとこで、ディープキスしてんのよ!!!

誰か、なんとかして〜〜〜〜。



その後、アルコールとキスでヘロヘロになったダイスケをヒロが抱えるようにして店を後にした。

仲良く帰宅した二人はいいでしょうけど、ダイスケの流した涙の10倍くらいの冷や汗をかいた私をどうしてくれる!

酔っていたとはいえ、ダイスケの記憶はきっと明日もバッチリ残っているはず。

憶えてらっしゃい! 皮肉の10や20じゃ済まないからね〜、思いっきり辱めてくれる!



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翌日、スタジオに現われたダイスケの顔は完全に溶けていて・・・・・


『お幸せそうでなにより』

皮肉たっぷりの私の言葉に

『へへへ・・・』

・・・・・・・へへへって何よ!


皮肉を言う気力も失って、幸せそうにワンコたちを撫でてるダイスケを見る。

ま・・・・・・・いっか・・・・・。

ずーっと、そうやって笑っててくれるなら・・・・・・。




世界で一番、頼りになりそうもない男に言いたくないけど・・・・・・・・・・・・・・頼むわよ、ヒロ。






---------- end ----------





1年ぶりの王子様シリーズですが・・・・ダメダメで凹みました。

ならUPするなよって感じなんですが、今の私にはこれが限界っす・・・(T_T)

せんべいでも齧りながら、暇つぶしに読んでやってください。m(_ _;m


                           
 流花
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