★ summer night ★ いつか王子様が・・・・・・・(9)
長い夏の陽が落ちてきて、神社に並ぶ夜店の明かりが賑やかに灯る。
今までもダイスケに付き合って、お祭りに行くことはあったけれど、こんなに小規模なものは初めてかもしれない。
そして、私の少し前を歩くダイスケの隣に、今並んでる男がいっしょにいるのも初めてのことだった。
“ お祭りに行きたい ” そう言い出したダイスケは例年のことだったけど、まさかヒロが付き合うとは思わなかった。
『こないだ、ケータイに送ってくれた浴衣、アレ着て行くんだよね?』
事務所に来るなり、言った言葉で奴の魂胆はわかったけどね・・・・。
『それは・・・浴衣を来たダイスケが見たいの? それとも脱がせるのが好きなの?』
もちろん、後者のがビンゴだって知ってるけど・・・・・
『what?』
いつから日本人やめたの?
『ごめん、ヒロ。 今夜は浴衣じゃないんだ・・・』
すまなそうなダイスケに、ヒロも落胆の色を隠さない。
『あれは、ステージ用なの! あんな派手なの着て歩いたら目立ってしょうがないわよ』
私の言葉にヒロも渋々頷いた。
『そっか・・・・・残念・・・・・』
『ヒロ・・・・また新しい浴衣買って、ヒロんちまで見せに行くよ・・・・それでいい?』
ダ〜イスケ、こんな奴甘やかしたらキリがないって・・・・・・・って、ヒロ、こんなとこでダイスケに抱きつくな!
『うん、楽しみにしてるよ』
脱がせるのを? だ〜か〜ら〜、髪にキスもやめなさい! 私以外にもまだ残ってるスタッフがいるでしょ!
げんなりしているスタッフを残して、私たち3人は夏祭りに行くこととなった。
もちろん、私がお邪魔虫なのはわかっていたけど、二人っきりで人ごみに繰り出す勇気もないらしく、
『お祭り、一通り見終わったらアベちゃんの仕事も終りってことで、即解散するから・・・・ね?』
一見ありがたいように聞こえるけど、用が済んだらとっとと帰れってことよね? ダイスケ・・・。
多分、あなたの隣で微笑んでる男は、縁日よりも “ その後 ” が楽しみなんじゃないかしら。
ところが・・・・・わからないものよねぇ・・・・。
いや、こいつの幼稚さを思えば当たり前なのかもしれないけど、ダイスケよりもはしゃいでるのよ、ヒロの方が・・・・。
ダイスケの腕を引っ張るようにして、あっちこっちの夜店を冷やかして歩いている。
もちろん、ヒロがそれだけ楽しそうってことは、それを見ているダイスケも上機嫌ってことで問題はないんだけどね。
『あ、ヒロ、あれ!』
ダイスケが見つけたのは金魚すくいの屋台。
『・・・あ・・・あぁ・・・』
ヒロの顔が微妙に引き攣ってる・・・・・ていうか、止めてよ、ヒロ!
私が目配せすると、ヒロは苦笑いしながらダイスケの腕を引いた。
『ねぇ、大ちゃんとこ、もう売るほど金魚いるでしょ?』
そうそう、売れるものなら売りたいくらいね。
『そうだけど・・・・掬いたいんだもん』
あ・・・・その上目遣いは・・・・ヒロ、負けるな!
『掬うだけ? なら、もし掬えたとしても返すんだよね?』
『・・・・・・・・・うんっ』
その “ うんっ ” が、すっごく信用できないんだけど・・・・・・。
嬉々として金魚すくいの屋台に向かうダイスケを、微笑ましげに見つめてるヒロに水を差すようで悪いんだけど・・・・
『ばっかねぇ・・・・、なんで許可するのよ』
『いいじゃん、掬ったら気が済むよ、きっと』
『甘いなぁ・・・、もし掬えたら持って帰るって言い出すに決まってるでしょ? いまさら2〜3匹増えても同じとか言って・・・』
『あ・・・・かなぁ?』
掬い網を買ったダイスケが、嬉しそうにヒロを手招きしていて、ヒロの意識はすでにそちらに向いているようだ。
『可愛いよねぇ・・・・』
だめだ、こりゃ・・・・。
また水槽に新しい金魚が増えることを覚悟した私は、大きくため息をついて、二人の後ろに立った。
こっちのが小さくて掬いやすそうだとか、これが大人しそうとか、ヒロのアドバイスが飛ぶなか、
ダイスケの網は2度3度と破けて・・・・それでもなんとか2匹を掬うことに成功した。
『戻すんでしょ?』
ヒロの必殺の微笑みもダイスケには通じないらしく “ でも・・・ ” と、金魚を放さない。
ほーらね、そうなると思ったのよ。
これは持って帰ることになるんだろうなと諦めていたら、ヒロが何事かダイスケに耳打ちして・・・・
『・・・そうなの?』
ダイスケが不安そうに言うと、ヒロが大きく頷く。
『じゃ・・・戻す』
あっさり金魚を放してしまったダイスケに吃驚していると、ヒロが私にこっそりウインクをよこした。
すごい、何を言ったの、ヒロ?
『あ、リンゴ飴〜!』
すぐに次の獲物を見つけて駆け出すダイスケの後を追おうとしたヒロを引き止める。
『ねぇ、今ダイスケに何言ったのよ?』
『うん、ああいうとこの金魚は病気持ってることが多いから、持って帰ったら他のに伝染っちゃうかもって言っただけ・・・』
『へぇ、そうなの?』
『知らない、出任せだから・・・』
そう言ってニヤッと笑うヒロに、私は呆れて声も出ない。
ダイスケを騙すとは、いい根性してるわよ。 でも助かったわ。
『アベちゃ〜ん、小銭ある〜?』
リンゴ飴片手のダイスケが呼んでいる。 私はお母さんじゃないわよ・・・・・いつものことだけど・・・・。
小走りでダイスケの元に行ってお金を払っていると・・・・
『・・・ヒロは?』
ダイスケの言葉に振り返ると・・・・・奴がいない。
『あれぇ? さっきまでいたんだけど・・・・変ねぇ・・・』
『あ・・・・』
(ヒロに関しては)目聡いダイスケが、少し離れた夜店の前で手招きしているヒロを見つけた。
私のことなんかキレイに無視して、リンゴ飴片手に走っていくダイスケの後姿は、どう見ても30代男子には見えない。
ゆっくり歩いて追いついた屋台は「射的」で、すでにヒロは何かを狙っているようだ。
ダイスケに訊ねると、嬉しそうに笑って的の中にある「アヒル」を指差した。
『あれ取ってくれるって・・・・ねぇ、ヒロ?』
『任せといて!』
言うなり引き金を引いて、弾は見事に命中したものの、アヒルの重量に負けて下に落とすことは出来なかった。
『大丈夫、あと2回撃てるから』
まるで自分に言い聞かせるように、ダイスケが真剣な声を出す。
『ねぇダイスケ、なんでアヒルなの? もっと軽いものにしたら? そんなアヒル、家にいっぱいあるじゃない?』
『あの表情のは持ってないよ』
へぇ・・・・・私には、どれも同じに見えるんだけど・・・・・てか、それって必要なの?
ヒロは立て続けに2回、アヒルに弾を当てて、見事にゲット。
飛び上がって喜んでいるダイスケの姿は、どう見ても30代男子には・・・・・・。
ダイスケはこれで満足したらしく、やっと私も帰れることになった。
車を止めておいた空き地は、もう真っ暗で、私は私の車、ダイスケは当然のようにヒロの車に乗せてもらうことになる。
『明日は昼過ぎにスタジオでいいよね?』
片手に食べかけのリンゴ飴、もう片方には黄色いアヒルを抱いて訊いてくるダイスケは、どう見ても・・・・・
・・・・もうやめよう・・・。
ダイスケの問いかけに頷きながら、自分の車に乗り込もうとして、
ふと、頼まれていた原稿のことを思い出して振り返った私の目に、車の陰でキスしている二人が映る。
ちょっとぉ〜、いくら暗くても見えるってば〜・・・・・それにここは普通の空き地よ? 誰かに見られたらどうするの?
『大ちゃん、甘いね・・・・』
『うん? リンゴ飴?』
リンゴ飴より蕩けた顔でヒロを見上げてるダイスケに、私の方が恥ずかしくなる。
何も見なかったことにして、車に乗り込む。
原稿のことは後でメールにでも入れておこう。
軽くクラクションを鳴らして走り出す私の耳に
『おやすみ〜! また来年も来ようね〜!』
ダイスケの楽しげな声が届いた。
いいえ、来年はお二人だけでどーぞ!
私は、絶対 “ 私の彼 ” と二人で夏祭りに行くわ、お揃いの浴衣とか着ちゃって・・・・・。
その時、私の脳裏に、嫌な予感と供に、お揃いの浴衣を来たダイスケとヒロが浮かんだ。
嘘・・・・・来年も? どうか、それだけは勘弁してください、神様・・・・・。
ヒロコの願いが届いたかどうかは、来年の夏、明らかになるだろう。
---------- end ----------
やっぱり「夏」ですから、こういうのもいいかなぁと思いまして・・・・・。
実は、Rillaさまの日記を読んで触発されちゃったんですけどね(^^;ゞ
書きたかったのは「可愛い大ちゃん」ですv (なのに浴衣じゃなくてごめんなさい;)
流花
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