★ telephone ★ いつか王子様が・・・・・(4)

 

 

 

花の都に来て、今日やっとプライベートでショッピングが楽しめた。

ダイスケとも別行動で、思いっきり買いまくって・・・・・残念ながら荷物を持ってくれる王子はいないけど。

これだけブランドのお店が並んでるんだから、王子の一人くらい売っててもいいのにね。

素敵な店員もいたんだけど、言葉の壁は厚くて私の求愛は通じなかった・・・・ということにしておこう。

 

ホテルに帰り着くと紙袋の束をベッドに放り投げて・・・自分もベッドに倒れこむ

まだ4時になったばかり。 早かったかな。

ダイスケ達と夕食を食べることになっていて6時に私の部屋で待ち合わせているんだけど、きっとまだ帰ってないわね。

買い物疲れで少し眠い。

せめて夢の中で王子様とデートでもしようかしら・・・・。

うとうとしてたら枕もとの電話が鳴って、業務連絡だろうと受話器を取る。

『はい?』

『あー・・・アベちゃん?』

『・・・ヒロ?』

素敵な夢を見ようと思ってたんだから現実に引き戻さないでよ。

『うん、元気〜?』

そりゃもう、パリを満喫してますとも! ・・・・あれ?

『元気〜って・・・どうしてここの番号・・・あ、あぁ・・・』

訊くまでもない、ダイスケが事前に教えていったに違いない。

『うん? なに?』

『いや、なんでも・・・・あ、ダイスケはいないわよ』

『えっ・・・・・そっか・・・・お出掛け?』

そんながっかりした声出さないでよ。 私が悪いことしてるみたいじゃない。

『そう、お買い物に行ってる。今日電話するって約束してたの?』

『ううん、そういうわけじゃないんだけど、今日は仕事入ってないみたいなこと言ってたからさ』

『まぁね、でもまだ4時だもん、帰ってないって・・・・あ、そっち何時?』

『日付変わったとこ』

『夜中なんだぁ・・・もう寝るの?』

『うーーん、わかんない。ま、いいや、大ちゃんによろしく言っといて』

私の返事も聞かないまま、ヒロの電話はあっさり切れた。

ちょっとぉ、私のパリ話聞いてくれてもいいんじゃない?

・・・・そうよね、高い国際電話を “私なんか” のために使いたくないのよね・・・・ふんっ。

そのまま、不貞腐れて一眠りしてしまった。 ダイスケ達のノックの音で起こされるまでぐっすりと。

 

『ははは・・・アベちゃん寝てたね? 髪が跳ねてるよ』

笑いながら入ってきたダイスケは両手に紙袋の束を抱えている。

自分の部屋に寄らず、直接ここへ来たらしい。

もう約束の6時を30分以上過ぎていた。

私もけっこう買ったつもりだったけど・・・・・これは負けたな。

後ろから着いてきたイトウくんもけっこうな量の荷物を持っている。

『二人ともいっぱい買ったのねぇ・・・』

『そう? アベちゃんもかなりじゃん。ねぇ?』

ベッドの上に散乱している紙袋を横目で見ながら、イトウくんと顔を見合わせて笑っている。

『何買ったのよ? 見てもいい?』

『いいけど、ほとんど服ばっかりだよ、あ、ちょっと待って』

私が袋に手を掛けたところをダイスケに止められた。 何よ?

『僕の分の他にお土産のがあるからさ・・・・』

ダイスケは袋を覗き込みながら、右と左に分け始める。

びっくりしたのはイトウくんが持っていた荷物も半分近くがダイスケのものだったことだ。

いったいどれだけ買ったのよ〜? 

『はい、いいよ。僕のはこっちね』

こっちと示された袋の山と、その隣のお土産用の袋の山はほとんど同じくらいの量になっている。

『ちょ・・・・と、こんなにお土産買ったの? いったい何人に買ったのよ?』

驚いてる私にダイスケはへへっと笑い、イトウくんもクスッと笑う。

・・・・・あ?

『まさか、これ全部ヒロへのお土産じゃないわよね?!』

『まさかぁ・・・確か、これ・・と、これは別の人の分だよ』

2個・・・・だけ別なのね・・・・、あとは全部あのでかい甘えん坊の分なのね?

『そこまで甘やかさなくてもいいと思うんだけど・・・・・頼まれたの?』

『別に頼まれてないけどさぁ・・・ヒロに似合いそうだなって思ったのを買っただけだもん』

『そ、パリはタカミさんに似合うものだらけだったんだよね?』

からかうように言うイトウくんを一睨みして・・・でも嬉しそうに笑ってるダイスケに文句も言えない。

自分で袋を開けて、ホラッと見せてくれる服のほとんどがブランドもので

『これの色違いと、こっちのデザイン違いはヒロにも買ったんだ。 かっこいいんだよ〜』

・・・・つまりヒロへのお土産も当然ブランドものってことよね。

甘い! ヒロにはどこまでも甘すぎるわよ、ダイスケ!

あ、ヒロで思い出した!

『そういえば、さっきヒロから電話があったわよ』

『えっ? さっきって?』

突然、顔色の変わったダイスケに、言うんじゃなかったと後悔したけど言ってしまったものはしかたがない。

『え・・・とね、もう2時間以上前・・・かな』

ダイスケは時計を見て、すぐに日本時間を計算したようだったが・・・・東京は夜中の3時に近い。

今からかけるのは無理と判断したらしく、ため息混じりに私を見る。

『・・・・そう・・・・ヒロ、なんて言ってた?』

だーかーらー、私が悪いみたいな気になっちゃうから、そんながっかりした顔しないでよ。

まったく、アイツもコイツも・・・。

『うん・・・ダイスケはいないって言ったら、よろしく言っといてって・・・』

『それだけ?』

『それだけ』

私の言葉に、また小さくため息をつくと、買ってきた荷物をガサガサとまとめ始める。

『ダイスケ?』

『うん? ご飯食べに行くんでしょ? 片付けてくるよ』

葬式の帰りみたいな顔したダイスケを手伝いながら、イトウくんも苦笑いしている。

まったく! 3年も離れてる恋人からの電話ってわけでもあるまいし、来週には会えるんじゃない。

その時ダイスケが急に動きを止めて、じっと電話を見た。

私もイトウくんもつられて電話を見てしまう。 電話がどうかしたの?

すると、待っていたようにベルが鳴り出して・・・

『ヒロだっ』

ダイスケが飛びつくように受話器を掴んだ。

『もしもし-----うんっ、今帰ってきたとこ-----え、もちろん楽しんでるよ〜・・・』

本当にヒロなの? なんでわかったの? エスパー? 唖然として、イトウくんと顔を見合わせる。

『ねぇ・・・』

ダイスケが受話器をもったまま、私たちに声をかけた。

『なに?』

『悪いんだけど・・・・席外してもらえる?』

・・・・・はい、はい・・・お邪魔でしょうとも。

ここは、一応私の部屋なんですけどね・・・・・二人きりでどんなお話するのかしら?

文句はいっぱいあったけど、何も言えなかった。

ダイスケがさっきとは打って変わって、1ヶ月早いクリスマスが来たような顔してるんだもん。

おとなしく、荷物抱えてイトウくんと退散するわ。

ドアが閉まる前にダイスケの蕩けそうな声が聞こえた。

『うん-----僕も-----でも、会いたい・・・』

 

 

廊下に出ると、イトウくんが爆笑する。

『すっごいよね、電話! どうしてわかったんだろう?』

『訊かないほうがいいわよ、“愛のパワー” とか言い出しかねないから』

イトウくんは、まだ楽しそうに笑いながらドアを振り返って言った。

『なぁんか、大ちゃん可愛いよねぇ・・・? あの可愛さは絶対タカミさんしか引き出せないと思うよ』

 

そうなの。 なんでヒロなんだろう。

“どうしてヒロなの?” 100万回繰り返した質問。

“だって、ヒロだから” 100万回聴いた答え。

仕方ない、ダイスケが幸せだって言うんなら・・・・・また大きくため息をつく。

 

『よし、今夜はぜーんぶダイスケに奢らせよう!』

『いいんですか?』

『いいの。幸せは分けてもらわないとね』

『あぁ、それはアリかも・・・』

二人で大笑いして、何食べようかと相談しながら廊下を歩いていく。

 

 

幸せの分け前がなぜ食べ物になってしまうのか・・・・微妙に悲しいパリの夕べ。

 

 

 

---------- end ----------

 

 

ついに4作目。 どこまで続くんでしょう・・・。

良かったらお付き合いいただけると嬉しいです(^_^;

パリ、大ちゃんは楽しかったみたいで良かった良かった。

ホントにヒロにお土産買ってきてくれてるといいんだけど・・・・。

流花

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