★ take out ★ いつか王子様が・・・・・(2) 

 


 

『きっと、すぐ出てくるよ』

ヒロの言葉は確信に満ちている。

『なんでわかるのよ?』

私も多分そうだろうとは思いつつ、簡単に認めたくもない。

『ん〜・・・愛の力?』

聞くんじゃなかった、このバカに・・・・。

その時、ダイスケの仕事部屋の扉が開いて、本人が不貞腐れた感じで出てきた。

ほらね・・・という目でヒロがこちらを見て微笑う。

 

今日、A*Sの曲が出来上がるはずだった。

だからヒロがMDを受け取るためにスタジオまで来たのに、なぜか曲が出来ていない。

朝には仕上がっていた予定なのに、それが昼までには・・・になり

現在、すでに3時を回っている。

昼過ぎに来たヒロも2時間ほどここでお茶を飲む羽目に陥っていた。

その2時間にダイスケが仕事部屋から逃げてきた回数がこれで3回目。

確かに最近忙しかったかもしれないけど、こんなことは珍しい。 特にA*Sの曲が出来ないなんて・・・・。

煮詰まっていることは明らかなんだけど・・・・・さて、どうしよう。

『ダイスケ、どう?』

ソファーに沈み込んだダイスケにさりげなく訊ねる。

『・・・・うん・・・・もうちょっと・・・・』

どう見ても、もうちょっとって感じではないんだけどね。

『本当はもうちょっと・・・・じゃないでしょ?』

ヒロの言葉にダイスケが苦笑いする。

『ねぇ、大ちゃん・・・』

そういいながら立ち上がってダイスケの隣に行ったヒロが私に意味ありげな目配せをした。

なに? 今の目は何が言いたかったの? 

『大ちゃん・・・・少し気分転換したほうがいいよ。根詰めて出来るってものでもないし・・・・・』

あら・・・案外まともなことを言ってるじゃない。

『ん・・・・だよね・・・・。ワンコの散歩にでも行ってこようかなぁ・・・・』

『あ・・・そうよねぇ』

それは名案と賛同しかけた私の言葉をさえぎるようにヒロの一言。

『ディズニーシー、行きたくない?』

は? いきなり何いいだすの、この男は。

仕事中よ? ダイスケだって常識ってものは持ち合わせてるのよ。

『ヒロ・・・?急にどうしたの?』

『オレ、シーは行ったことないし・・・・大ちゃんもいい気分転換になるかなぁって・・・・ダメかなぁ?』

それは私に聞いているの? そうか、さっきの目配せはそれか? ダメに決まっ・・・・

『ヒロもいっしょに行くってこと?』

声が弾んでいる。 ダイスケ、仕事中よ? 常識は持ってるわよね?

『うんっ。大ちゃんが案内してくれるんでしょ?』

ヒロ! 何をかわい子ぶってるのよっ。

ほらぁ・・・ダイスケがハチミツを目の前にしたプーさんみたいになっちゃってるじゃない・・・。

『案内くらい、いっくらでもするけどぉ〜・・・・・・アベちゃんが・・・・』

ダイスケ、小首を傾げて甘えれば言うこときいてくれるのはヒロだけよ。

『ダメにきまってるでしょ!仕事どうするの?』

するとヒロがダイスケを庇うように口を挟む。

『その仕事のための気分転換なんだからいいじゃん』

『ヒロは黙ってて!』

私のこの言い方が不味かったらしい。

『アベちゃん! ヒロは僕が仕事煮詰まってるから言ってくれてるんだよ? そんな言い方良くないよ』

・・・・・・・・・・はい、はい。

大好きなヒロと大好きなディズニーが両手を広げて待ってるんですものね・・・・・敵うわけないか・・・・。

『いいわよ、行ってきて・・・・』

『ホントッ?』

こらこら、ヒロと手を取り合うな。

『でさ・・・・・私もいっしょに行っていいわよね?』

『・・・・・・え?』

ダイスケが私を見て固まった。

『だって、ダイスケが仕事しないんなら私も時間空くし・・・・行きたいなぁ、ディズニーシー』

もちろん、そんな気ぜんぜんないんだけど、ちょっと癪だったから意地悪で言ってみる。

ダイスケがヒロと二人っきりで行きたいなんて恥ずかしくて言えないのはわかってるからね。

たまには困らせてみたいじゃない?

『あ、いいんじゃない? みんなで行った方が楽しいよね、大ちゃん』

ヒロ〜? 本気なの? 本当に調子いいって言うか・・・・・天然なだけか・・・・。

ダイスケは情けない顔で、私とヒロを見比べるようにしている。

そんなダイスケを見て、ヒロもピンと来たらしいけど・・・・。

『なぁに?ダイスケは私が行くと困ることでもあるの?』

『別に・・・・そんなこと言ってないじゃん!』

『そう? なんか不満そうな顔してるから・・・・』

『そんなことないってば!』

『じゃ行っていいのね?』

『う・・・・・・・・・』

困ってる、困ってる。 可哀想だからこれぐらいで許して・・・・

『アベちゃん、ごめ〜ん、今回は大ちゃんと二人だけで行っていいかな?』

『え・・・?』

『ほら、気分転換だからさ、仕事を思い出す要素はなるべく少ない方がいいよ・・・・・ねっ』

最後の “ねっ” は、微笑み付きでダイスケに向けて・・・・・・あ、ダイスケの顔が蕩けてる。

いいわねぇ・・・・、助け舟を出してくれる王子様がいて・・・・。

『アベちゃんとは また今度ってことで・・・・』

『オーケー、ダイスケをよろしくね』

そういって、ちろっとダイスケを睨んでやったけど・・・・・

『ごめんね、アベちゃん・・・』

緩みっぱなしの顔で謝られても、あまり嬉しくない。

『帰りはスタジオ寄るんでしょ?』

仕事もあるし・・・・・と思ったらヒロがまたとんでもないことを言い出した。

『え?ディズニーのホテルに泊まるんじゃないの?』

なんですって〜!

『あ・・・・それは無理だよ、ヒロ』

よかった・・・・ダイスケにも まだ正気の部分が残ってて。

『予約でいっぱいだと思うよ』

違うでしょ、ダイスケ〜、そういう問題じゃなくて・・・・誰が泊まってきていいって言ったのよ!

『そうなんだぁ? じゃ違うホテルでもいい?大ちゃん』

よくないっ! ダイスケも何頷いてるのよ!

『やっぱり、気分転換なんだからホテルに一泊しないとね〜』

気分転換って言えば、何でも許されると思ってないか?ヒロ。

『ダイスケ、泊まりたいの?』

答えのわかっている質問に、案の定頷くダイスケ。

 そりゃね・・・・隣で王子が肩抱いてるんだから・・・・・勝てないよなぁ・・・・。

結局、すべてヒロの思うがままになって、ダイスケを持ち帰ることになった。

 

 

ダイスケが席を立ってる間にヒロを思いっきり睨んでやったけど、まったく効き目なし。

『ねぇ、アベちゃん。 なんで大ちゃんが煮詰まってると思う?』

いきなりヒロに訊かれたけど心当たりがないので首を傾げてるてると・・・・・

『もう10日以上 やってないんだよね〜』

『やってないって、何を・・・・・・』

あ、わかった。 言わなくていい! そのスケベ笑いで充分、理解しましたよ。 しかし・・・・

『そんなことで煮詰まったりするものなの?』

『まぁねぇ・・・・男ですから。 だからお泊りは必要かな〜って』

その勝ち誇ったような顔がむかつくわ〜。

『で、アベちゃんは何年ぐらい煮詰まってるの?』

!!!

目の前にあった書類の束をまとめてヒロに投げつけた。

素早く避けたヒロは、ちょうど出掛けるしたくをして戻ってきたダイスケの腕を掴んでドアへ走り出す。

『いってきま〜〜〜っす!』

笑いながら手を振るヒロと、訳がわかってないダイスケもヒロに引っ張られながら私に手を振ってドアの外に消えていった。

くっそ〜〜〜!!! いつか叩きのめす!!!

あんな男がいいのか、ダイスケ! あれが王子なのか?

で・・・・・・・・・・・・・・・、私の王子様はどこよ〜?

たった今、セクハラ男に毒のリンゴを食べさせられたのよ? 早くキスしにこないと姫は腐乱しちゃうわよ!

 

だけど、王子様の足音はまだまだ聞こえてきそうにない・・・・。

 

 

 

---------- end ----------

 

 

 

アベちゃんの受難・・・・ってタイトルの方がいいかも・・・・・。
ごめんね、アベちゃん、大好きです(^_^;
10日やらないと曲がかけない大ちゃんって・・・・じゃあ、沈黙の7年はどうしてたんでしょうか?
・・・・・ま、それはそれ、これはこれってことで(笑)

流花

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送