★ いつか王子様が・・・・・(1) ★

 

 

桜の花が満開の頃、トリビュートライブのための衣装が事務所に届けられた。

いつもなら上機嫌でチェックするはずのダイスケの顔が曇っていることに気が付いていたけど

こういう時、ヘタに訊くと薮蛇ってこともあるのよね・・・・だから私は見て見ぬ振りをしていた。

『これさぁ・・・・・』

ほぅら、来た。 何を言い出すのやら・・・・・。

『少し、派手じゃない?』

派手? あなたの口からそんな言葉を聴こうとは思わなかったわ。

『どこが? いつもより地味なくらいじゃない?』

A*Sや、ソロの時に比べればかなり控えめだと思う。

色だって、どちらかといえばシックな感じだし・・・まぁ その分アクセサリーはかなり光っているけどね。

ダイスケは これのどこを見て派手だなんて思ったんだろう。

『なんかさぁ・・・僕だけ浮いちゃうんだよね・・・・ウツとか、キネさんってラフな感じでしょう?』

『そうなの?』

『うん。 なのに僕だけキラキラしてたら・・・・・ねぇ?』

ねぇ・・・って言われても・・・・・。

『別にいいんじゃない? ダイスケらしくて』

『でもさぁ・・・・』

まだ、言うか。

『カッコイイって、これ。ダイスケもラフ見たときは気に入ってたじゃない』

『そうなんだけど〜・・・何か言われそうだよね・・・・ウツたちに・・・』

まぁ〜ったく! 普段は何言われたって気にしないくせに・・・・ウツ、ウツって、ウツはお前の恋人か?

恋人?・・・・・そうか。

『ま、とにかく この話は一時中断して・・・・休憩にしない?』

私の態度が急に柔らかくなったものだから、ダイスケが ちょっと意外な顔してるけど・・・・。

そんなダイスケを置いて私は洗面所に駆け込むとケータイを取り出してボタンを押す。

『・・・・・出るかな・・・・・・』

“・・・はい?”

あら、声が警戒してるわね

『あ、今暇?』

“・・・・あのさ、いきなり過ぎない?”

人の男に愛想振りまいてる暇はないのよ

『今から、こっち来れる?』

“・・・・だからさ・・・・人の話聴いてる?”

そっちこそ私の話聞いてるの?

『アンタの姫がダダこねてんのよ』

“・・・・大ちゃん、どうかしたの?”

そうですか、やっぱり姫だと思ってるんですか、王子・・・・・。

けっ・・・・と心の中で毒づきながらも背に腹は代えられない。

今の状況を打破できるのは このバカ王子だけに違いないと、さっきまでのダイスケとのやり取りを説明した。

“・・・・・ふぅ〜ん・・・・”

あら・・・その口調は何か御気に召さなかったのかしら?

“・・・・事務所だね、今から行く”

とりあえず 王子は来るらしい。 ワンコを避難させておかないとね。

 

 

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『ねぇ・・・・アベちゃん、ダメ?』

ダイスケが何度目かの言葉を私に投げかける。

『ダイスケ〜、子供じゃないんだから・・・・』

私も同じように言葉を返す。

キラキラと輝くステージ衣装のかかったスタンドハンガーを挟んで、ダイスケとの攻防はもう30分近く続いていた。

周りのスタッフは、見てみぬ振りで自分の仕事に専念している。

『ねぇ・・・今から衣装作り直せない?』

そんなに着たくないわけ?

『無理言わないでよ。 これのどこがいけないの? ウツなんて放っときなさいよ』

う〜・・・と、ダイスケが唇を尖らせて、私を上目遣いに睨みつける。

 

『ウツさんの好みは、どういう衣装なの?』

 

その声にびっくりして振り返ると、ヒロがいつのまにか出入り口のドアに凭れて立っていた。

『ヒロォ?』

ダイスケ、お願いだからその蜂蜜まぶしたような声はやめなさい。

『どうしたのぉ? 今日来るなんて言ってなかったよね?』

ええ、私が呼んだんですよ。 きっとヒロはオフを満喫してたと思うんだけどね。

これでダイスケの機嫌も治る・・・・と思ったんだけど、なんかヒロの様子が微妙に違うような・・・。

ヒロはスタッフの挨拶に軽い会釈で応えながらツカツカと衣装に歩み寄る。

『で、ウツさんに気に入ってもらうには、どういうデザインじゃなきゃいけないの?』

あぁ・・・・、ヒロ怒ってる。 そうか、それで電話切る時も様子が変だったのね。

ダイスケを見ると、しまった・・・・って顔で私に目でSOSを送ってくるけど・・・・知〜らないっと。

『ヒロ・・・そうじゃなくて・・・・ウツたちの衣装と合わないんじゃないかな・・・って・・・』

『へぇ・・・大ちゃんは衣装を相手に合わせてたんだ? 知らなかった。 じゃオレの時も合わせてくれてたんだね?』

にっこりと笑うヒロが、傍から見てても・・・怖い。

当然、ダイスケは蛇に睨まれた蛙状態で、返す言葉を探して目が泳いでいる。

『いや・・・あの・・・ほらっ、ウツたちは先輩だから合わせないといけないかなぁ・・・って、ちょっと思っただけで・・・』

ちょっと思っただけぇ? それで30分もダダこねてたわけ? ほぉ〜?

小さな声で必死に言い訳するダイスケを見て、ヒロも少しは気が治まったらしく、極悪の微笑が柔らかくなった。

でも、目は笑っていない・・・・・気がする・・・・・のは私の気のせいかしら?

『じゃ大ちゃんは気に入ってるんだね? この衣装』

ヒロに言われて、ダイスケが改めて衣装を見る。

『う・・・・ん・・・・、派手じゃないかな?』

『どこが?』

そうでしょう? 私もそう言ったのよ。

ヒロが衣装を手にとって何か言ってくれるのを、ダイスケは隣で大人しく待っている。

私には機関銃みたいに文句言ったじゃない! ヒロにも言えば?

『このシャツと合わせるの? なんかシックでいいよね』

『そう?』

おいっ!その素直な態度はなんなの? 私がシックだって言った時はそうじゃなかったよね?

『うん・・・きっとカッコイイと思うな。金髪にも映えるし・・・』

ヒロがダイスケに衣装を当てて微笑むと、ダイスケも嬉しそうに微笑み返す。

あのさぁ、ヒロが言ってることは、私がさっきから散々言ってたことばかりじゃない。

ええ、ええ、どーせ私は王子じゃないですよ!

心で叫んでる間も、このバカップルは “アクセはどうする?” “ここにつけたらいいんじゃない” などと

ひと目も憚らず、イチャイチャしている。

スタッフ一同を 顔が上げられない状態にしてどうする・・・。

そんな私の視線に気が付いたのか、ヒロがこちらを見た。

『アベちゃん、大ちゃんのこのあとの予定は?』

『え?・・・そりゃ2〜3日内に仕上げてもらいたい曲があるから、それを・・・』

『それは明日でもいいんでしょ?』

ねぇ? と、ヒロがダイスケに笑いかける。

ダイスケもホヤ〜っと微笑いながら、ヒロを見て・・・そして、縋るように私を見る。

ちょっと、冗談じゃないわよ。 仕事していただかないと予定ってものが・・・・。

文句を言おうとヒロの顔を見たとたん、言葉が詰まってしまった。

だから その目だけ笑ってない微笑はやめて・・・・怖いってば。

そう・・・・・まだ怒ってるのね。 そりゃダイスケも不用意に “ウツ” って言い過ぎたとは思うけどさ・・・。

で、ダイスケ持ち帰ってどうするの?

『・・・いいわよ。 その代わり明日は午前中から仕事してもらうわよ?』

渋々OKを出すと、ダイスケが満面の笑みで私にお礼を言う。

ちょっと心が痛い。

帰り支度をするために奥に入ったダイスケの背中を確認してヒロに近づくと、小さな声で囁いた。

『ダイスケは明日も仕事なのよ』

『わかってるよ、ちゃんと送るから』

『仕事できる状態で送ってくれるのよね?』

『・・・・・・・・・・うん・・・』

ちょっとぉ・・・・、その “間” はなんなのよ〜。

私の一睨みにヒロが苦笑いで返す。

『グラビア撮影とかはないんでしょ?』

『グラビア? そうね、今週は入ってないけど・・・・・って、それどういう意味?』

その時

『ヒロ〜、お待たせ〜』

ジャケットを羽織って、バッグ片手のダイスケが飛ぶように走ってきた。

『あ、新しいジャケット? かっこいいじゃん』

『ホント?』

だめだ・・・・やられてるわ・・・・。

じゃあ、お先に〜・・・と、スタッフに手を振るダイスケの背中を押すようにエスコートしているヒロに目で訴える。

“それはうちの商品なのよ! お願いだから無事に返してよ?”

ドアを閉める寸前に唇の端をちょっと上げて笑ったヒロの顔を見て、今の訴えは無駄らしいと気づいてしまった。

 

 

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翌朝、いかにも泣かされましたという腫れぼったい目でダイスケがスタジオ入りした。

その顔を見て、昨日からダイスケを悪魔に売ったような罪悪感を感じていた自分がバカらしくなってしまった。

何があったかは知らないけど、ダイスケは・・・・・とても幸せそうだったから・・・・。

『ねぇ・・・王子様はやさしかった?』

試しに訊いてみると、ダイスケは はにかむように微笑って答える。

『うんっ』

そうなんだ? やっぱりアレは王子なの? 何されても幸せなのね? ふぅ〜ん・・・。

 

自分の机に座ると、私は大きくため息をつく。

私も欲しいな、王子様・・・・・・・、私の王子はどこなの〜?!

いつか王子様が迎えに来てくれることを信じて、今日もパソコンを立ち上げる。

 

ヒロコ、○○歳の春・・・・。

 

 

---------- end ----------

 

 

アベちゃん、結婚しないのかな?←おおきなお世話(^_^;
suikaさんの作品と被りそうだったので書きかけのまま放っておいたものだったんですが
居直って、仕上げることにしました(笑)
大ちゃんが何されたのかが気になるかもしれませんが
ヒロ王子が酷いことするわけないよね〜?
怖くて書けないだけ〜♪・・・ヾ(-_-;)オィオィ?

流花

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