caught 〜white day〜 

 

 

『3時だね・・・・』

ダイスケが時計を見て呟く。

『そうね・・・・1時間前は2時だったからね』

呆れたように言葉を返すアベを、ダイスケが不思議そうに見る。

『あのね・・・2時になったときにも “2時だね” って言ったし、1時の時も “1時だね” って・・・。

 いちいち1時間おきに教えていただかなくても、私も時計読めるし・・・』

ダイスケが気まずそうに、小さな声で “ごめん” と謝った。

『別に謝らなくてもいいけど・・・・・ヒロと約束でもしてた?』

どうせ原因はそのあたりだろうと見当はついている。

『ううん・・・してない・・・・いや、してる・・・・あ、やっぱりしてないかなぁ・・・』

はっきりしないダイスケにアベがますます呆れて、ため息をつく。

ヒロがホワイトデーに会おう・・・・と言ったわけではない。

でも、それらしい言葉を仄めかしたのは事実で、それをあてにしちゃいけないと思いながらも

心のどこかで、もしかしたら・・・・の思いが消せないダイスケだった。

結果、刻々と過ぎていく時間が気になってしまう。

『3時なんだし、おやつにする? ホワイトデーのお菓子、みんなに渡してないんでしょ?』

『あ・・・忘れてた』

事務所の女性スタッフに渡すために持ってきたものだったが、ヒロのことが気になってダイスケの頭から完全に消えていた。

といっても、買ってきたのはアベで、ダイスケは渡すだけなのだけど・・・・。

 

4時になり、5時を回り・・・・・6、7、8時・・・・夕食も終わる頃にはダイスケも完全に諦めモードに入っていた。

『しばらく篭るから、邪魔しないでね』

やっと本気で仕事する気になったかと、アベが一息ついた時、ダイスケのケータイが鳴る。

着信名を見たダイスケの表情で誰からの電話か、アベは嫌でもわかってしまう。

『はい・・・・うん・・・・え?・・・・いいよ、待ってて』

それだけ言ってすぐに電話を切ったダイスケがドアに向って走り出した。

『ダイスケッ?』

何事かと、アベが呼び止める。

『あ、あのね、ヒロが駐車場に来てるって。 ちょっと行って来るから』

嬉しそうに微笑って、飛び出していこうとするダイスケの背中にアベが声を投げる。

『すぐに戻ってきてよっ! 仕事たまってるんだからっ』

『わかってる〜!』

返事は、すでにドアの向こう側。

『ま、少しぐらいなら愛を語らってもいいけどね・・・・』

誰にも聞こえない声で、アベが呟いた。

 

ダイスケが駐車場に飛び出すと、止めた車に寄りかかるようにしてヒロが立っているのが見えた。

『ヒロッ』

呼びかけて小走りに駆け寄り、少し息を荒くして目の前に立ったダイスケにヒロが笑みを落とす。

『ごめんね、呼び出しちゃって』

『あ、ううん、どうせアニーたちに会いたくなかったんでしょう?』

笑うダイスケに、ヒロも肯定の意味で笑ってみせる。

『遅くなっちゃってごめんね、仕事抜けられなくて・・・・さっき終わったばっかりでさ・・・』

『忙しかったんなら今日でなくてもよかったのに・・・』

たった今、転がるように走ってきたダイスケを見たばかりのヒロには、それが強がりだということはすぐにわかったけど、

指摘したらダイスケの機嫌が悪くなることもよくわかっているので返事にそつはない。

『だって、オレが会いたかったから・・・』

その言葉に蕩けそうな顔で微笑うダイスケを見て、ヒロはやっぱり来てよかったと思う。

そして、後ろ手に隠していた小さなバラの花束とリボンのかかった箱をダイスケの前に差し出した。

『・・・わぁ・・・ありがとう・・・・これは?』

嬉しそうにバラを胸に抱きながら、箱の中身をヒロに訊ねる。

『いろいろ聞いたんだけど・・・マシュマロが基本だって言うからさ・・・』

『言うから・・・って、誰が言ったの?』

ジェラシーの混じったダイスケの疑問にヒロが苦笑いする。

『ハヤシさん』

ヒロのマネージャーの名前が出て、ダイスケもホッと納得してしまい、“いろいろ聞いて・・・” の部分を忘れている。

もちろん、わざわざ思い出させるほどヒロもバカではない。

『そのマシュマロ、ローズなんとかっていって綺麗なピンク色なんだよ』

『バラのマシュマロ?』

『いや、イチゴの粒入りなんだって。 大ちゃん好きでしょ? イチゴ』

『うん・・・・美味しそうだね〜』

心は、すでにマシュマロに移っているダイスケを見て、ヒロも満足そうに微笑んだ。

『ねぇ・・大ちゃん』

『ん?』

バラを抱いて見上げるダイスケに、思わず出てしまった言葉。

『このまま、大ちゃんをさらっちゃだめかな?』

『さらっ・・・・』

ポカンとしたダイスケが、次の瞬間、爆笑する。

『ヒ〜ロ〜、何いってるのぉ? スタジオ抜けてきたんだよ〜?』

『だめ?』

『仕事いっぱい残ってるもん、行きたいけど・・・アベちゃんに殺されちゃうよ』

『そっか・・・・』

残念そうに言ったものの、最初から無理だろうと思っていたので諦めも早い。

辺りを見回すと素早くダイスケを抱き寄せて、その唇に軽くキスを落として

『それじゃ、お楽しみはまた今度・・・・ね』

ウインクするヒロに、今度・・・・・・がいつになるのか、見当もつかないダイスケは急に不安になり

軽く手を振って車に乗り込もうとしたヒロのジャケットの裾を思わず掴んでしまった。

『・・・大ちゃん?』

引き止められて振り返ったヒロの目に、裾をつかんで俯いたままのダイスケが映る。

『どうしたの?』

上目遣いにヒロを見て、ダイスケが呟くような声で言う。

『いっしょに・・・・アベちゃんに叱られてくれる?』

その言葉にヒロの口元が綻んだ。

『・・・殴られてもいいよ』

『それは・・・痛そうだね・・・』

笑っているダイスケを助手席に座らせてドアを閉めると、ヒロも運転席に滑り込んで逃げるように車を発進させた。

 

『どこに行く?・・・・時間ないんだよね?』

信号待ちでのヒロの質問に、ちょっと考えたダイスケの答えは・・・

『ここ、右に曲がって・・・・僕んちが近いから・・・』

『オーケー。 大ちゃんとこ久しぶりだよね〜』

楽しげなヒロに、ダイスケも頷きながら、部屋散らかってなかったかなぁ・・・と、いらぬ心配をしている。

 

 

『ちょっと待ってて!』

玄関で言い置いて、部屋に駆け込んだダイスケが、急いでベッドカバーを剥ぎとって

パタパタと叩いているところを後ろからヒロに抱きしめられてしまう。

『ぅわ! びっくりした〜・・・・・もう、待っててって言ったのに〜』

そんなダイスケの抗議の声も聞かずにヒロはそのうなじに唇をつける。

『や・・・ヒロ・・・待って・・・』

『さっきから待ってばっかりだよ。 さらわれてきたんだから、おとなしく捕まってくれなきゃ・・・・』

『でも、ベッドが・・ん・・・・』

ヒロが言葉ごとダイスケの唇を奪ってしまう。

そのまま、ゆっくりベッドに押し倒して・・・・・・そこでヒロの動きが止まった。

『大ちゃん・・・・・これ・・・・』

『だから待ってって言ったんだよ』

ベッドの上に散らばっているのは犬の毛で・・・・・・この後5分間、二人でバタバタと犬の毛掃除に追われることとなった。

 

『あっ・・・・あ・・・・ヒロ・・・・待っ・・・・て・・・』

すでに2回目に挑んできたヒロをダイスケが力の入らない腕で必死に止めようとする。

『もう絶対待たない。 “待て” は、ワンコだけにして・・・』

にべもなく撥ねつけると、抵抗するダイスケの腕を片手でベッドに縫い付ける。

『だ・・・って・・・・まだ・・・仕事・・・・が・・・残っ・・・・・あぁっ・・・・・・ん・・・』

ヒロの空いてる片手は、ダイスケの良いところを簡単に探し当てて突いてくる。

『まぁだ、仕事なんて考えてる余裕あるんだ?』

ならば、その余裕を奪ってしまおうと、ヒロの指と唇はダイスケから離れない。

『やっ・・・・・あぁっ・・・あああ・・・・・・』

ヒロ自身が入ってくる頃には、ダイスケの身体は快感だけを忠実に追う生き物に変わっていて、ヒロの背中に爪を立てる。

『ヒ、ロ・・・・・ヒ・・・・・・ロ・・・・・』

ヒロは背中の痛みに煽られながらも、うわ言のように自分の名前を繰り返すダイスケを見下ろして口元に薄い笑みを浮かべた。

大丈夫、ここにいるから・・・・・・・君のなかにいるよ・・・・・・と。

 

 

『あっ!』

ベッドの中で、ぐったりしていたダイスケの突然の奇声に、うとうとしていたヒロが吃驚して目を開けた。

『な、何? どうしたの?』

『アベちゃんに連絡するの忘れてた〜・・・・』

時間はとっくに深夜を回って、ホワイトデー翌日になっている。

『あぁ・・・・・でも大ちゃんケータイ持って来てないでしょ?』

『うん・・・・でもヒロのケータイにも連絡ないって変だよね?』

『あっ!』

今度はヒロが叫んでベッドから飛び出すと、ジャケットの胸ポケットから自分のケータイを取り出して開きながらダイスケの隣に戻ってきた。

『・・・・・・マナーモードにしたままだった・・・・・・あ、着信5件・・・・全部アベちゃんだ・・・』

二人で顔を見合わせて、力なく笑う。

『メールも入ってるよ。 3件。 えと・・・・“ダイスケはいっしょなの?” 次が・・・“すぐにダイスケを返しなさい!” 最後が・・・・あはは・・・・』

泣き笑いの表情でヒロがケータイをダイスケに渡す。

そこには “殺す” の二文字が・・・・・。

『あぁ・・・短い一生だったなぁ・・・・』

天を見上げるヒロを尻目にダイスケは慌てふためいた。

『ヤバイよ、帰らなきゃ!』

ベッドから降りたとたん、その場にへたり込んでしまったダイスケを見て、ヒロが堪えきれずに笑い出す。

『ヒロ〜〜〜』

情けない声で助けを求めるダイスケを、ヒロはベッドから降りて抱きかかえると、再びベッドに降ろした。

『もうちょっと休まないと・・・・・ね?』

肩を抱き寄せるヒロに、だって仕事が・・・とか、アベちゃんが・・・・と口の中で呟くダイスケ。

『オレの上着引っ張ったのは誰だっけ?』

『う・・・・・』

いったん俯いてしまったダイスケだが反撃は忘れない。

『だからといって、こんなになるまで・・・・・ってのはヒロのせいだよね?』

『だぁって、大ちゃんが誘うんだもん』

『誘ってない!』

『自覚なくて、あの痴態?』

『ちっ・・・・・ちた・・・・・』

真っ赤になって睨みつけるのは逆効果だということも自覚はないらしい。

『大ちゃん、その顔すーごく色っぽい・・・・』

ヒロの妖しげに光る瞳を見て、また火をつけてしまったことに気付いたダイスケだったが、時すでに遅し・・・・。

『どうせ殺されるなら、大ちゃんが殺してよ・・・・・』

そんなセリフに絆されるダイスケもダイスケだが・・・・・・。

 

まもなく修羅場が訪れるにせよ、今、幸せなひとときを過ごす二人を止めるものは何もない。

 

 

 

---------- end ----------

 

 

 

こんな感じのホワイトデーになりました。 いかがなものでしょうか?

えっと・・・・・やっぱりお笑いかな(^_^;

いやいや、私はロマンティックを目指しているんですよ、常に!

バレンタインもホワイトデーも自分には無縁なんですけどね〜・・・・。

だからこそ、この二人には、い〜っぱい幸せになってもらいたいんです(T^T)

                                 流花

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