*** 昼下がり ***

 

 

そろそろレコーディングに取り掛かろうかという時期、ヒロが風邪で寝込んだと事務所から連絡が入った。

なんで事務所からなんだ? 僕のとこに直接連絡してくればいいじゃないか。

スタジオでブツブツ文句を言っていると、アベちゃんが呆れたように僕を見る。

『ヒロも気を使ってるんでしょ? じゃなかったら、電話するのも億劫なくらい具合が悪いってことも・・・』

『あっ・・・・・そうなのかな・・・・どうしよう? お見舞いに行ったほうがいいかな?』

それとも電話したほうが・・・・と、ケータイを手に取ろうとして止められた。

『やめときなさい。 寝てるかもしれないし・・・・・ヒロのことだから女の子が看病に来てくれてるかも・・・』

女の子?!

『今から、お見舞いに行く。 タクシー呼んで』

アベちゃんが慌てて、女の子なんか来てないわよとか、かえって迷惑になるとか、感染ったらどうするのとか

必死で僕を止めようとしたけど、今、ヒロに会わないと仕事なんか手に着きそうもない。

『タクシー呼んでくれないなら、外で拾う』

『・・・・・わかった。送るわよ・・・・』

アベちゃんは、男のジェラシーって、やーねー・・・・とか言いながら車のキーを手に取る。

すみませんね、嫉妬深くて・・・・。

でも、文句を言いながらもヒロのマンションの前まで乗せていってくれた。

何かあったら連絡してね・・・・僕を降ろす時に念を押すのは忘れずに。

 

 

ヒロから預かった合鍵、滅多に使うことはない。 だってここに来る時はいつもヒロといっしょだから。

でも今日は寝ているかもと思って、ベルは鳴らさず合鍵を使った。

そうっと入ると、中は静まり返っていて・・・・やっぱり寝てるのかな・・・・このまま帰ろうか・・・・

玄関で躊躇していると僕のケータイが鳴り出して・・・・びっくりしてバッグを探ってたら奥からヒロが走り出てきた。

その手にはケータイ が握られている。 だって、鳴っているのはヒロ専用の着信音。

玄関先で二人、顔を見合わせて笑い出す。

 

『どーしたの、大ちゃん』

ヒロの声は少し鼻に掛かってて髪も乱れて・・・・病人相手にこんなこと思っていいのかな・・・・・色っぽいよね。

『どうしたのって、お見舞いに決まってるじゃん。大丈夫なの?』

言いながら靴を脱いで上がるとヒロが一歩下がる。

『だめだよ。嬉しいけど・・・感染ったら大変でしょ』

また僕が一歩進むと一歩下がるヒロ。 なんか可愛い。

『ヒロと違って丈夫に出来てるから感染ったりしないって』

逃げるヒロを捕まえて、ぎゅっと抱きしめる。

『だめだってば〜!アベちゃんに叱られるよ?』

そのアベちゃんに送ってもらったんだって言ったらヒロも納得したみたいで、やさしく僕の背中に手を回してくる。

『キス・・・・は?』

僕としてはかなり頑張って甘えた声を出したんだけど

『・・・・・・・・・・それだけは絶対ダメ』

うーん、手強い。 でも応えるまで間があったってことは希望はアリかな。

抱き合ったまま、身体の具合を聞きながら僕の思考はとんでもない方向に向かっていた。

ヒロの顔を見るまでは、ちゃんと看病して、大人しく寝かせてあげようって思っていたんだけど・・・・・

病んでるヒロって なんか色っぽいんだもん。 大人しいヒロってのも可愛いし・・・・・キスもしないで帰るなんて出来そうもない。

微熱があるらしいけど・・・・・キスくらいなら・・・・・いや、アレとアレくらいなら大丈夫かな〜・・・・・。

僕があれこれ画策していると、ヒロのケータイが鳴って、ヒロは不自然なくらい急いで画面を確認する。

『誰?』

普通、そんなこと訊かないけど・・・わざわざ僕の腕から逃げて確認したのは絶対怪しい。

『友達だよ、メールだけどね』

そのまま、奥に歩き出したヒロの背中を追いながら、友達って女でしょって言ってやりたかったけど我慢した。

“男のジェラシーって、やーねー” アベちゃんの言葉を思い出したから。

でも、リビングで立ったまま、メールを読んでたヒロが急にトイレに行こうとしたので、さすがに腕を引っ張って止める。

『返事ならここで打てば?』

ヒロは、ちょっと気まずそうに笑ったけどその場で返事を打ち始めた。 

1分ほどで打ち終わってホッとした表情をしたのもつかの間、またケータイが鳴り出した。

『出ないの?』

ヒロがすっごく困った顔してるから女だなって確信して・・・・・嫉妬心から意地悪になってしまった。

ヒロは覚悟したみたいで、寝室まで行ってベッドに腰掛けるとケータイを開く。

---- うん、大丈夫だから ----- てか、もう来てるんだよ・・・うん、突然だったんで ---- ありがとう ----- またね -----

何が大丈夫で、誰がもう来てて、どこが突然だったの? 

“またね” のあとに “愛してるよ” って言わなかったのが不思議なくらい甘い声を出していた。 

少なくとも僕にはそう聞こえた。

“男のジェラシーって、やーねー” という言葉は1億光年の彼方に飛んでいって、僕はヒロの前に仁王立ちしてしまう。

『説明してくれるよね?』

いつもより一回り小さくなって座っているヒロが可愛いんだけど、今は甘い顔が出来ない。

『友達がね・・・・お見舞いに来てくれるって言ったんだけど・・・・断ったんだよ・・・・それだけ』

『ふぅん・・・・僕がこなかったら、そのお友達が来てくれるはずだったんだ? 僕はお邪魔だった?』

自分でも嫌なこと言ってるなぁって思ったけど、どうにも止められなくて・・・・。

でもヒロが悲しい顔をしたので、すぐに後悔してしまう。

『ごめん・・・・・言い過ぎた』

俯いた僕をヒロは立ち上がって抱きしめてくれる。

『大ちゃんが来てくれて本当に嬉しいよ。風邪じゃなかったら このまま押し倒したいくらい・・・』

押し倒してくれていいのに・・・・・こういうときだけは我慢強いなんてずるいよ。

ヒロの顔を見上げると伏せた睫毛と頬にかかる髪が妙に色っぽくて・・・・

『したい・・・』

無意識に口から出ていた。 ヒロが吃驚して僕の顔を見る。

そんな顔しないでよ、自分でも吃驚してるんだから。

『大ちゃん・・・・・困らせないで・・・』

『身体・・・辛い?』

『いや・・・そういう問題じゃなくて・・・・感染ったら大変だよってさっきも言ったでしょ?』 

『感染らないって、僕もさっき言ったよね?』

だぁいちゃん・・・・と笑いながら強く抱きしめてくるヒロだけど・・・・

『絶対、だ〜めっ!』

そういって僕から離れ、リビングに戻ろうとするから、その後姿に向かって叫んでしまった。

『絶対、するっ! するまで帰んない!』

自分でもむちゃくちゃ言ってるのはわかっていた。 看病しにきたはずなのにヒロを困らせてばっかりだ。

でも そんな僕を見てヒロが笑い出したから、ちょっと勇気付けられた。

ヒロの手を引っ張ってベッドに連れて行くと、ヒロといっしょにベッドに倒れこむ。

ヒロに覆いかぶさるようにキスしようとしたら、少し抵抗されたけど・・・・ヒロはやさしいからすぐに受け入れてくれる。

『ん・・・・・本当に・・・ん・・・・感染って・・・・も・・・・・知らないよ?』

まだ言うか・・・・。 それもキスしながら。

『風邪ひきやすいヒロとは違うよ』

唇を離した僕を見上げながらヒロが手を伸ばして指で僕の髪を梳く。

『陽に透けて、綺麗だね・・・・・きらきらしてる』

寝室のカーテンの隙間から昼下がりの陽が差し込んで僕の金色の髪に当たっている。

そっか、まだこんなに明るい時間なんだ・・・・・そう思ったら急に恥ずかしくなってきた。

そんな僕の気持ちを見透かしたようにヒロが微笑む。

『どうしたの? もう終わり?』

『するよ!』

『・・・・・して・・・・』

あ・・・・今の一言は下半身にキた。 白いシーツに横たわるヒロは壮絶に色っぽい。 

『大ちゃん、今すごくセクシーな顔してる。誘ってるの?』

誘ってるはずだったんだけど・・・・・誘われてる気がする。

『ヒロのほうが色っぽいよ・・・・・どうして欲しい?』

『・・・・愛して欲しい』

・・・・・これ以上どうやって?

その時、ヒロの両手が僕を包み込んで身体を反転させベッドに縫いとめた。

見下ろすヒロも新鮮で素敵だけど、このアングルが一番落ち着くみたい。

琥珀の瞳をちょっと細めて、微笑むヒロの顔に見惚れてしまう。

『愛してくれる?』

いつだって愛してるよ・・・・知ってるくせに・・・・・僕が頷くとヒロの悪戯な指がシャツのボタンを外し始める。

明るい日差しとヒロの視線が眩しくて、僕はゆっくり目を閉じた。

 

                 *

 

この日の夜、ヒロの熱は上がり、悪化した風邪で3日間寝込むことになった。

毎日のようにお見舞いに行った僕は、ヒロが回復しかけた頃 風邪をひいて、結局レコーディングは1週間遅れることとなる。

 

 

---------- end ----------

 

 

 

以前に書いて眠らせていたのですが、某読者様のリクエストによりひっぱりだしてまいりました。

決してD×Hではありません、念のため(苦笑)

こんな大ちゃんもたまにはいいかなぁ・・・って。 どうでしょうか???

 

                               流花

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送