Happy Birthday

 

『何が欲しい?』

ラジオの収録の合い間に、何気にヒロが訊いてきた。

一瞬、何のことだろうって思ったけど、この時期だもん。 アレだよね?

『お誕生日?』

うん、とヒロが頷く。

『ん〜〜〜〜〜・・・何がいいかなぁ・・・・』

横からテッカンさんが、すっごいもの頼んじゃえば?と言って笑っている。

すごいもの? なんだろう? ヒロがくれるなら何でも嬉しいんだけど・・・・・・・・・

そんなこと言ったらヒロが付け上がるだけだから絶対に言わないけどね。

僕が考えてると、ヒロが持て余して鼻歌を歌いだす。

知らない曲だけど、ヒロが歌うとみんないい曲に聴こえる。

・・・なんてことも絶対に言ってあげないけど・・・

『ヒロの歌』

僕の言葉に歌いながらもヒロが首を傾げる。

『ヒロの歌が聴きたい』

ヒロが歌うのをやめて、僕の顔をじっと見る。

『それが・・・欲しいもの?』

今度は僕が うん、と頷くとヒロが笑った。

『いつも聴いてるじゃない。ライブでも・・・今も・・・』

だよね・・・・と僕も笑う。

でもね・・・・なんか、そう思ったんだもん。 

僕の欲しいものはヒロだけど、独占するのは難しそうだし

だったら ヒロの声を独占してみるのはどうだろうって考えたんだ。

ヒロが僕のためだけに歌ってくれるっていいかもしれないって。

 

結局 お誕生日にはダウンのジャケットをもらった。

ジャケットもヒロの気持ちもすごく温かくて・・・・歌のことなんてすっかり忘れていた。

 

*

 

“明日の夜、空けといて”

ヒロから電話があって、新しいアルバムの打ち合わせも兼ねてということでアベちゃんからは あっさりOKが出た。

次の日、指定された場所までタクシーを飛ばすと、すでにヒロが待っていて、

そこから歩いて数分の裏通りのビルの地下に案内された。

薄暗い店内にはテーブルがいくつかあって・・・・・バー、なのかな。

奥に小さなステージがあってグランドピアノが置いてある。

普段はジャズでも聴かせるお店なのかもしれない。

『ここ、座って』

ステージ正面のテーブルに僕を案内したヒロが椅子を引いてくれた。

『何か、飲む?』

『ヒロ・・・?』

『ん?』

『ここ、誰もいないの?お客さんも・・・お店の人も・・・』

店内をグルッと見渡したんだけど僕たち以外、人の気配がない。

『だって、貸切だから』

『えぇっ?』

びっくりした僕に満足したようにヒロが笑う。

『正確に言うと、今日はここ休みなんだ』

『あぁ・・・だからお店の人もいないんだ?・・・・・て、そんなの借りてどうするの?』

僕の問いかけを無視してヒロはカウンターの奥へ入っていく。

『ワインでいいよね?』

訊きながら すでにワインを開けてるんだもん、頷くしかないよね。

僕の好きな赤ワインをグラスに注いでテーブルに置いてくれる。

『これ飲んで待ってて』

待つって?・・・・・・訊ねる間もなくヒロがステージ横のカーテンに消える。

 

 

『・・・美味し・・・』

少し飲んだワインは甘くて美味しかった。

どこのなんてワインだか分からないけど・・・・・。

その時ステージに照明がついて、カーテンの中からマイクを持ったヒロが現れた。

ステージ中央で恭しくお辞儀をすると

『タカミヒロユキ・ソロライブへようこそ!』

そう言ってにっこり笑う。

あ・・・・・僕が欲しいって言ったもの・・・・憶えててくれたの?

『ちょっと遅れたけどバースデープレゼント、受け取ってね』

ヒロの声に重なって前奏が流れ出す。

なんて、曲? 聴いたことあったかな?

ヒロが英語で歌いだして思い出す。

よくヒロが口ずさんでる曲だった。 題名は知らないけど・・・・・綺麗なバラード。

もしかしたらヒロが歌うから綺麗な・・・・・なのかもしれない。

1曲終わったところで拍手!

するとヒロは小走りにカーテンの陰へ、 どうやら次の曲をセットしているらしい。

そのあとも1曲終わるたびにカーテンに消えるヒロがなんだか可愛くて・・・

『僕がやろうか?』

声をかけたら、 だめ、大ちゃんは座ってて! と怖い顔をされた。

は〜い、おとなしくお客様してます。

ヒロが歌ってくれるのは すべて洋楽でバラードだった。

知らない曲もあったけどヒロが歌ってくれてるから・・・・・

僕だけの為に歌ってくれているのだからみんな素敵な曲に聴こえた。

次に流れ出した前奏に聞き覚えがあった。

洋楽じゃない・・・・多分ヒロのソロ曲。

聴いたことはあるけど・・・・・やっぱり題名はわからない。

 

“どんな時も ひとりで悩まないで”

“この出会いを いつまでも愛せるように”

“見つめ合って 信じあっていけるままに”

“いつでも 君のそばにいるよ”

 

ずるい、急に日本語なんだもん・・・・涙が出そうだ・・・・・。

ヒロが ずっと僕を見つめて歌い続けてるから、目を逸らすわけにもいかなくて。

我慢して、我慢して、やっと曲が終わったところで立ち上がった。

『大ちゃん?』

びっくりしているヒロの横をすり抜けてステージ上のグランドピアノへ駆け寄る。

『なんか弾きたくなっちゃった。 ヒロ歌って?』

何かしてないと絶対に泣いちゃう。

そう思ってピアノの前に座ると

『何弾こうか?』

ヒロを見ないように鍵盤の上に指を載せる。

今 顔を見たら絶対に涙が出そうだったから。

僕の後ろにヒロが立ったのがわかった。 背中にやさしく手が置かれる。

あぁ、だめだって・・・・・・・僕は涙を振り切るように鍵盤を叩いた。

無意識に弾き出したのは「LOVIN’YOU」

大丈夫、この曲なら何十回も何百回も弾いてて慣れてるから・・・・・・・・そう思ったのに。

マイクを通さないヒロの声がいつもの何倍もやさしく響く。

背中に置かれた手がゆっくりと抱くように肩にまわる。

どうしたんだろう・・・・・鍵盤がぼやけてて・・・・・。

もう溢れてくる涙を止めることは出来なかった。

ヒロが歌ってるんだから、ちゃんと弾かなきゃ・・・・そう思っていても演奏が乱れる。

その時、ヒロが僕を抱き上げるようにして 自分の前に立たせた。

涙でぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくて、下を向く僕の頬をヒロが両手で挟むようにして仰向かせる。

そのまま ゆっくりとヒロの唇が降りてきて、僕の唇を包み込む。

最初はついばむように軽く、次第に深くなってゆく・・・・僕の息が上がるまで、僕の涙が止まるまで。

 

 

ヒロの胸に凭れて、ごめんね・・・・と小さく呟く。

『何が?』

せっかくヒロが歌ってくれてたのに泣いちゃって・・・・・。

『悲しくて泣いたの?』

ううん・・・・嬉しくて・・・・。

『だったら いっぱい泣いていいよ』

そういってヒロが強く抱きしめてくれる。

ありがとうヒロ、素敵なプレゼントだったよ。

LOVIN’YOUは途中までしか聴けなくて残念だったなって僕が笑うと・・・・

『じゃ、最後まで聴いて』

そういってヒロは僕を抱きしめたまま囁くように歌いだした。

なんだか不思議な感覚。

ヒロの声が体中に染みるように響いてくる。

その声に誘われるように また涙が零れてきて・・・・・・・でも大丈夫。

悲しい涙じゃないんだから・・・・・。

いっぱい泣いてもいいんだよね? ヒロ・・・・。

 

 

---------- end ----------

 

 

ヒロの誕生日に考え付いたのがコレ。

なぜ大ちゃんの誕生日なんだ? 天邪鬼な私(苦笑)

こんなものですが、謹んでsuikaさんのお誕生日に捧げます(^_^;

(お蔵入りにならなくてよかった・・・(笑)

流花

 

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