* Especially Kiss *

 

 

どこか 暖かい南の島の浜辺で寝そべっている・・・・・そんな夢を見ていた。

(・・・・ヒロ・・・・ヒロ?)

誰かが呼んでる。 誰だろう・・・・・まだ眠いのに・・・・・・・・・(大ちゃん?)

ヒロがゆっくり目を開けると、怖い顔をしたナツミが覗き込んでいる。

『・・・あ? おはよう。』

伸ばした手は、パシンと弾き落とされた。  何を怒ってるいるのかヒロには分からない。

ナツミとは今年の始め頃から付き合いだして、そろそろ半年になる。 

さっぱりしてて、ヒロの我侭も笑い飛ばして無視できるという素敵な性格だ。

自分の彼女の家に泊まることはあまりしないヒロだが、ナツミは別でオフの前日はよく泊まったりしていた。

『大ちゃんって?』

『あ?』

ナツミの言葉に、ちょっと考えて、そこで やっと夢の中で呟いたことを思い出す。

『アサクラさんとこういう状況になったことあるの?』

こういう状況って・・・・・・ベッドでいっしょに寝てる この状況のことか?

『なに考えてんだよ? どうして俺が大ちゃんと寝なきゃいけないの。』

『・・・・・だって、彼 ゲイなんでしょ?』

頭の芯がスッと冷めて、一気に目が覚める。 ダイスケがゲイ? そんなことを考えたことはなかったヒロだが

言われてみれば、そうなのかもしれないと思う。

『どっから そんな話になったのさ?』

『友達が言ってたもの。アサクラさんはそうだって、業界でも有名なんだって・・・・・・違うの?』

『業界でも有名って? へぇ・・・・知らなかった』

ヒロは本当に知らなかった。 業界ってどこの? なら、知らない俺は業界人じゃないな・・・・なんてことを考えていた。

『本当? レコーディングとかライブでアサクラさんと ずっといっしょにいたんでしょ? 訊いてないの?』 

『な〜いよ、普通訊かないでしょ、そんなこと』

『訊かなくてもわかるもんじゃないの? たとえば、恋人らしき男性が尋ねてきたとか・・・・』

『ば〜〜〜か』

興味深々のナツミを笑い飛ばしたものの・・・・・・・・恋人? 今、彼に恋人はいないはずだ。

A*Sを再結成してから、レコーディング、ライブと半年ほど いっしょに過ごしたけどそんな感じは まったくなかった。

いや、自分が気づかなかっただけだろうか? 

それに今はいないとしても・・・・・・・・ では以前はいたのだろうか? 再会する前は?

『どうしたの? やっぱり心当たりある?』

急に黙ってしまったヒロをナツミが覗き込む。

『なんか・・・・気分悪い・・・・・』

白いシーツに視線を落としたままで、ヒロがボソリと呟くと彼女は慌てて謝った。

『ごめん! 相方のことそんな風に言われたら嫌よね、ごめんね、もう言わない。』

(・・・・・・・いや、そうじゃなくて・・・・・・)

ヒロは気分の悪くなった原因に薄々気づいていた。 これは独占欲? いや・・・・・嫉妬? 

そんなはずない。 ダイスケのことはアーティストとして尊敬しているが、それだけだ・・・・・・それだけのはずなのに・・・・・・。

ヒロは胸に湧き上がるもやもやしたものを吹っ切るように、心配顔のナツミを引き寄せる。

『ちょっ・・・何考えてんの!』

『えっちなこと〜』

腕の中でもがくナツミを押し倒そうとして、思いっきり突っぱねられた。

『私はこれから出勤です! ヒロみたいな自由業の人とは違うの!』

『自由業って・・・・・・』

情けない顔をしているヒロを残して、ベッドから飛び降りたナツミはバスルームに駆け込んだが、

シャワーの音をさせながら またバスルームから笑顔をみせた。

『出るときは鍵しめてってね。 あ・・・・・鍵そのまま持ってってもいいけど』

『ん・・・・いや、郵便受けに入れとく』

笑顔で返すヒロの言葉に ナツミはちょっと寂しそうな顔をしたが、そうねと返事をしてバスルームに消えた。

ヒロは 絶対に合鍵を持たない。 縛られてる感じがして好きじゃないから・・・と。

 

再びベッドの中へ潜り込みながら、ヒロは昨日のダイスケのことを思い出していた。

ヒロが明日はオフだと言うと、いいなぁ〜と羨ましそうに見上げていた。

伊達にかけてるメガネをはずして、ディズニーランド、ず〜っと行ってないんだよ・・・・と愚痴っていた。

行きたいの?と聞くと ヒロとライブしてるのも楽しいからいいんだけどさ・・・と照れくさそうに笑っていた。

ダイスケのいろんな顔が鮮明に思い出せてしまう自分が信じられなくて・・・・・・ヒロは無理やり眠りにつこうとするがうまくいかない。

約7年間、殆ど付き合いがなかったのだから、恋人がいたっておかしくはない。 いや、いない方が変だろう。

『絶対、違う・・・・・・』

ひとり呟いて、この気分の悪さが嫉妬ではないとヒロは自分に言い聞かせる。

二日後、レコーディングでダイスケと会う。 それまでにこの気持ちの整理をつけなくてはと。

 

 


 

春のライブツアーも、あと1公演を残すだけとなっていた。

最後の公演で新曲をやろうという話がでて、今日はその曲のデモを録るためにダイスケのスタジオに入る。

マネージャーも連れずに ひとりでスタジオに着いたヒロを出迎えたのはダイスケのマネージャーのアベだった。

『おはよ〜! ・・・・って、大ちゃんは?』

『おはよ。 ダイスケね、昨日・・・てか今日、朝方まで仕事だったの。 まだ奥の仮眠室で寝てる。 そろそろ起こしてくるわね』

そういうアベも かなり眠そうだ。 付き合って起きていたに違いない。

背中を向けたアベを ヒロは慌てて呼び止める。

『あ・・・いいよ、まだ時間あるし。コーヒーでも飲んでるから もう少し寝かせてあげようよ』

振り返ったアベは ニッと笑って出口に向かって歩き出しながら言った。

『やさし〜のね〜、 じゃ隣の喫茶店でアベちゃんがコーヒー奢ってあげちゃいましょう!』

 

昼時のコーヒー専門店にはヒロ達のほかには 一組の客がいるだけだった。

静かなBGMが流れる中、アベが向かい側に座ったヒロの顔を覗き込むように言う。

『2日間、オフだったのよねぇ? その割になんか・・・・疲れてる?』

ヒロは飲んでいたカップから目を上げて、ちょっと首を傾げた。

『いや・・・昨日は取材あったけど・・・・別に疲れては・・・・・』

『じゃ、心配事? あ、彼女と喧嘩?』

ポンポン言ってくるアベに苦笑いしながら、ふと思いついたように訊いてみる。

『あのさ・・・・・大ちゃんって・・・・・恋人とかいるのかな?』

『はぁ〜〜〜?』

アベは信じられないといった顔で眉間に皺を寄せた。

『何言ってんの? アレが誰を好きか知ってるでしょ?知っててライブの時にキスしまくってるくせに〜』

あぁ、可哀想なダイスケ・・・・・・・・と天を見上げる。

『や・・・・そうじゃなくて!』

最近ではライブの時、パフォーマンスのようにダイスケの髪にキスをするのが定番になっていた。

最初は ちょっとした思い付きでやったヒロだったが、ダイスケが嫌がることもなく

ライブの後に照れたように笑うのが可愛くて、結果毎回ということになってしまっていた。

『今はいないと思うんだけど、前は・・・・いた・・・よね?』

訊くまいと思ってたのに、どうしても気になる。 いっそ訊いてしまえばすっきりするかも・・・と思ったヒロだった。

『ほぉぉぉ? 気になったりするわけ?』

少し意外そうに聞き返すアベに、ヒロは目を伏せて、まぁ、ちょっと・・・と言葉を濁す。

アベは、ソファに寄りかかって、しばらく何事かを考えているようだったが、小さく咳払いをして身を乗り出す。

『恋人・・・・って言えるかどうかはわからないけど・・・・いたわよ、付き合ってたコなら。』

『あ・・・・・だよね〜・・・・普通いるよね〜・・・・』

いたはずだと思っていたくせに、本当にいたと聞いてヒロは平静ではいられない自分に動揺する。

『誰だと思う?』

アベの言葉に、ヒロはびっくりして顔を上げた。

『え? 俺の知ってる人?』

アベはふふんと鼻で笑って、知りたい?と意地悪く訊く。

『ちょっと考えればわかるわよ。あの仕事人間が出会う人達なんて限られてるでしょ?』

謎かけのように言われても、とっさに思いつくものではない。 

『言っとくけど 今は付き合ってないわよ・・・・・多分ね。 ていうか、ちょっと関係があった程度なんだから。 知りたい〜?』

ヒロに睨まれてアベは気持ちよさそうに笑う。

『ごめん。 だってヒロ・・・・・・・』

平静を装ってるつもりなのだろうが、ヒロの指は小刻みにテーブルを叩いてるし、目は泳いでいる。

また ひとしきり笑った後で、ヒロの方にぐっと身を乗り出して、小さな声で言った。

『ニシカワ』

ヒロは一瞬、その名前が信じられなかった。 からかわれているのだと思ったが、アベの表情は硬かった。

『・・・だって 彼結婚してるよね? 違った?』

『あら、芸能界では珍しいことじゃないでしょ。 それに何度も言うようだけど深い関係って訳じゃなかったのよ。

 ダイスケはね・・・・・・嫌んなるくらい頑固でね・・・』

ず〜〜〜〜っと 誰かさんが好きだったみたいよ〜と テーブルの下でヒロを軽く蹴った。

こんな女ったらしのどこがいいんだか・・・・・とブツブツ言ってるアベの言葉は すでにヒロの耳には届いていない。

ニシカワ・・・・・ダイスケがプロデュースしているのだから、それもありかな・・・・とテレビで見たニシカワの顔を思い浮かべる。

そして胸のもやもやは すっきりするどころか、ますます膨らんで息苦しくなってきていた。

 

 


 

スタジオに戻ると、すでにダイスケは起きていて、コーヒーを飲んできたという二人に ずるい!を連発する。

アベは そんなダイスケを完全無視して、さっさと帰り支度を始めた。

『とりあえず 帰って一眠りするわ。 私はいなくても問題ないでしょ?』

ノートパソコンをバッグに詰めて、ドアを出て行くアベにワンコよろしくね〜とダイスケが手を振った。

大型犬が苦手なヒロのために彼が来る日はいつも2匹の犬を預けている。 だからヒロはいまだにダイスケの犬と会ったことがない。

それだけダイスケが気を使っていることにヒロは気が付いているのかいないのか・・・・・。

二人きりになると、ダイスケが急に落ち着かなくなる。 

『え・・・・と、すぐ始める? ちょっと準備するから待ってて。コーヒーでも・・・・あ、飲んできたんだっけ・・・じゃ・・』

『だぁ〜いちゃん? 落ち着こう』

ソファに座ったヒロに笑い混じりに言われて、落ち着いてるよ・・・とダイスケは小さく抗議したが、ヒロのクスクス笑いは止まらない。

笑われてることに、少し拗ねながらもヒロが笑顔を見せてくれることが嬉しい。

なのに、ヒロはその笑顔のまま、とんでもないことを言い出した。

『ねぇ大ちゃん、ニシカワくんと付き合ってたって?』

え?・・・・とダイスケは自分の耳を疑ったが、すぐ目の前にいるヒロの言葉を聞き違えるはずはなかった。

アベが喋ったことは明白だ。 でもなぜ急にそんな話になったのかダイスケには分からない。

『どうして・・・・・そんなこと聞くの?』

ダイスケはどんな顔をしていいのか分からず、曖昧な笑みを浮かべて答えた・・・・・が、それがヒロには気に入らなかった。

ヒロの顔から笑みが消える。 それを見たダイスケも笑いを消した。

『俺さ、自惚れてた・・・。』

『ヒロ・・・?』

『大ちゃんはさぁ、ずっと俺のこと好きなんだって思ってた。 でも・・・・・そんなはずないよね・・・。

7年もあったんだから
 他の人 好きになって付き合ってたって・・・・当たり前なんだよね。 俺も何考えて・・・』

『何、それ!』

急に叫んだダイスケにびっくりして、ヒロは言葉を止めた。

『なに・・・勝手なこと・・・・、僕を置いてアクセスやめたのヒロじゃない! 僕がヒロに会いたい時、そばにいなかったじゃないか!

 僕が誰と、どう付き合ったって、ヒロに何も言う権利はないよ!』

肩を怒らせて、睨みつけるダイスケの瞳から一粒、二粒と涙が零れる。

ヒロは何も言い返せないまま、泣いてるダイスケを見上げていた。

ダイスケは ただ悔しかった。 確かにニシカワとは一時期、付き合っていた。 

いや、じゃれ合っている程度の付き合いだったが、
ニシカワに懐かれて悪い気はしなかったし・・・・・・・あの頃は寂しかった。 

もしかしたら相手は誰でも良かったのかもしれない。

でもほんの短い間でしかなかった。 どうしても心の中のヒロを消すことは出来ないのだからニシカワともうまくいくはずがなかった。

こんなに好きなのに・・・・・・・、ずっとずっと好きだったのに、ヒロにわかってもらえないのが とても悔しかった。

『大ちゃん・・・・ごめん・・・。』

ヒロがソファから立ち上がって、ダイスケの涙を指で拭った。

『泣かないで・・・・・別に攻めたわけじゃないんだ。 ただ・・・・・・ニシカワくんにちょっと嫉妬しただけ』

そういって苦笑いするヒロを、ダイスケはポカンと見上げる。 

これは嫉妬だと・・・・ヒロは認めることにした。 そうしないと ここから先へ進めなくなる。

『・・・・・嫉妬って・・・・? ヒロが? どうして?』

『どうしてかな・・・・・・。多分、大ちゃんが好きだからじゃない? 他に思いつかない』

まただ・・・・・とダイスケは溜息をつく。

『ヒロは・・・・・ヒロの好きは分からない。 僕とは違う好きだっていったじゃない。 なのにどうして嫉妬なの?』

『う〜〜〜ん・・・・俺にもわからない。 でも大ちゃんが俺以外の奴と付き合うのは嫌だって思っちゃうし・・・・』

『彼女いるくせに・・・・・』

ダイスケが唇を尖らせて軽く睨む顔が ヒロには可愛くみえて思わず抱きしめてしまった。

『ヒ・・・ロ・・・?』

ダイスケはヒロの腕の中で少しもがいただけで、その暖かさに身を委ねた。

『キスしていい?』

ヒロが耳元で囁く言葉に、内心ドキドキしながらもダイスケは笑ってみせる。

ヒロが上機嫌なときは、スタッフの目を盗んで掠め取るようなキスをすることがよくあった。

ふざけてるだけだと分かっていても、ダイスケはその度に嬉しかった。

『いつも勝手にしてるくせに・・・・』

なんで今日に限って聞くんだろう・・・・・と思っているダイスケの瞼にキスが降りてくる。

ヒロの唇は そのまま滑るように頬に下りて、唇へと辿り着く。

甘く噛み付かれるようなキスに、いつもとは違うことに不安なったダイスケだが動くことが出来ない。

唇にヒロの舌を感じて、思わずヒロの背中にしがみついた。

そのまま歯列を割って侵入ってくると、ダイスケの舌を探して絡めとる。

『ん・・・・・』

ダイスケは膝の力が抜けて、くず折れそうになるのをヒロにしがみついて、辛うじて立っていられる状態だった。

永久に終わらないんじゃないかと思うくらい時間がたった頃、ヒロがゆっくり唇を離すと 

普段あまり顔色が変わることのないダイスケの
頬が薄紅く上気して、先ほどの涙とは違う、別の涙で目が潤んでいる。

 ヒロはこのまま押し倒したくなる衝動を抑えて身体を離した。


どうして、こんなキスを・・・・と訊きたいダイスケだったが、怖くて聞くことは出来なかった。

自分を愛しているからだなんて考えるほど おめでたい性格ではない。 

気まぐれなヒロの言葉を聞くくらいなら何も聞かないほうがいい、そう思ってダイスケは精一杯平静を装う。

『顔・・・・・洗ってくるね』

ヒロの顔を見ないで、そう言って背中を向けようとしたのを、また引き戻された。

『大ちゃん、怒ってる?』

『べ・・・つに、怒ってなんか・・・・・・』

『彼女とは別れる』

突然の言葉に びっくりして顔を上げると、照れくさそうに笑うヒロと目が合う。

『だから大ちゃんも別れてね、ニシカワくんと』

『だ〜か〜ら〜・・・・』

とっくに別れたってばっ・・・と駄々っ子のように言うダイスケをヒロは嬉しそうに見ている。

今朝までのもやもやはきれいさっぱりなくなったていた。 認めてしまえばこんなに簡単なことだったんだ。

ダイスケが男だからと、知らぬ間に意地を張っていたことに ヒロはやっと気づいていた。

『ごめん、冗談だって。 顔洗っておいでよ。 レコーディング始めよう!』

『・・・・・う・・・ん。 そだね・・・・。』

訳が分からないといった顔で、ダイスケが小首を傾げてヒロを見る。

『今、すっごい歌いたい気分!』

目をキラキラさせたヒロに もう何も言えなくてダイスケは洗面所へ向かう。 その背中にヒロの声が飛んだ。

『ニシカワくんと どっちが上手だった?』

振り向いたものの ダイスケには何のことか分からない。 

『歌?』

そんなダイスケにヒロが投げキッスを送ると、やっとダイスケにも意味が通じた。

『知らないよ、そんなの!』

乱暴にドアを開けて部屋から出て行こうとしたダイスケだったがドアを閉める寸前、チラッとヒロを見て呟く。

『ヒロのほうが、上手い・・・』

パタンと閉じたドアを見つめるヒロの口元が綻ぶ。

『よっしゃぁ!』

思わず握りこぶしを作ったヒロの声につられるように、ドアの向こうからダイスケの笑い声が聞こえてきた。

その日、初めての二人きりのレコーディングが首尾良く進んだことは言うまでもない。






 

---------- end ---------

 

 

なんとか正式(?)に キスすることが出来ました。

すみません・・・・・・・、 誰目線の話かも定まっておりません。

文章力のなさ、色気のなさは笑って見逃してください・・・・・。

                                  流花

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