★★★ 僕のクリスマス ★★★







年に一度のディナーショーが終わったからといって冬休みをもらえるわけじゃない。

たとえクリスマスでも、いつもと変わらない一日が始まるだけ。



ゆっくり昼過ぎまで眠って、スタジオに入って・・・・仕事・・・は、せずにゲームしてるけど。

コンサートが続いたから、アベちゃんも大目に見てくれている。



『テレビが見たいな〜』

コーヒーの入ったマグカップを僕の前に置きながら、アベちゃんが隣に腰を下ろす。

『僕は見たくない』

テレビ画面から目を離さず答える僕を、アベちゃんが鼻で笑った。

なんだよ、その笑い・・・・・思わず彼女を睨みつけたが、そんなことを気にする人じゃない。

『なによ? クリスマスに誰かさんが来ないからって拗ねてるんでしょ?』

『拗ねてなんか・・・・・ただ・・・』

『ただ?』

『・・・・なんでもない』


別に僕はキリスト教徒でもないし、クリスマスに浮かれるほど若くもない。

ただ、世の中がクリスマスを恋人達のイベントにしてしまったから、今日、一人でいることが不自然みたいに感じるだけだ。

なのにテレビをつけると、きっとそれを思い知らせるかのようにメリークリスマス≠フ嵐に違いない。

僕に関係のないクリスマスなんて早く終わってしまえばいいんだ。



『電話・・・すれば?』

アベちゃんなりに気を使ってくれているのか、からかうのはやめたみたいだ。

『いいよ、どうせすぐ仕事で会うし・・・・それに・・・・ヒロは友達もいっぱいいるからどこかでパーティーかもしれない』

うん、きっとそうだね。 ヒロがいると楽しいって感じるのは僕だけじゃないんだ、残念だけど。

自嘲気味に笑ったら、アベちゃんが苦い顔をした。

『ダイスケ・・・無理してない?』

『え? 何が?』

『だって・・・・・・あれは・・・いつだったかな・・・・5年・・・6年くらい前のクリスマス・・・』

いきなり何? ポカンとしてる僕に構わず、アベちゃんは話し始める。

『ほら、あの頃付き合ってた人・・・・サウンドクリエーターだった? クリスマスに仕事入れちゃったって

 ダイスケ、怒って彼に電話したじゃない? クリスマスに来られないなら、もう二度と来るな!≠チて・・・』

『あぁ・・・』

懐かしいな、そんな奴いたっけ・・・・確か仕事休んでクリスマスは付き合ってくれたけど

結局、年明けて1ヶ月も経たずに別れちゃったんだよ。

『そのあと、すぐ別れちゃったわよね・・・・それから、ヒトシだったか、サトシだったか・・・』

『アツシだろ? なんだよ、いったい・・・』

『それそれ、その人にもかなり無理言ったわよねぇ、真夜中に迎えに来いとか、どこそこのケーキが食べたいから

 今すぐ買ってきてとか・・・・やってたでしょ?』

クリスマスに昔の恋人思い出させてどうするんだよ。

『・・・・それが何?』

僕を不機嫌にさせたいわけではないだろうけど意図がわからない。

『ヒロには言わないのね』

『・・・・なにを?』

いきなりヒロの名前が出て、少なからず動揺してしまう。

『だぁかぁらぁ、迎えに来いとか、休み合わせろとか、アレ買ってこいとか・・・・言わないでしょ?』

『・・・・だって、ヒロは・・・仕事仲間でもあるわけだし・・・・』

『関係ないわよ、恋人なんでしょ? 今までみたいに我儘言えないのは変なんじゃない?

 だから、無理してるんじゃないかって聞いてるの。 

 このまま気を使ってたら、いつかダメになっちゃうんじゃ・・・・・あ、ごめん・・・』

言い過ぎたと思ったのか、アベちゃんが気まずそうに口を噤んだ。

『ううん・・・』

僕は微笑って首を振る。

アベちゃんが僕を心配してくれてるのはわかっているから・・・・。

『そうだね・・・・じゃ、ちょっと我儘言っちゃおうかな』

僕は、ゲームのコントローラーを置いて、ケータイを手に取ると、ヒロにメールを打った。


会いたいな〜=@と、それだけ。


すぐに返事は来ないだろうし、きっと今日は会えないだろうけど・・・・

いいんだ、気持ちが伝われば。

そんな僕を見て、アベちゃんがやっと笑ってくれた。

『ハートいっぱいのメール?』

『あはは・・・そんなの送ったら、ヒロ引いちゃう・・・・え?』

手の中のケータイが鳴り出して、びっくりしてディスプレイを見ると彼の名前。

アベちゃんは、すぐに察してくれてウインクひとつ残して立ち上がった。

『もしもし・・・』

《だぁいちゃん! merry Christmas!!!》

とってもネイティブな発音に、聞いてるこっちが恥ずかしくなる。

『ご機嫌だね、パーティーでもやってるの?』

ヒロの後ろでいろんな雑音が聞こえてる。

《まぁ、そんな感じかなぁ・・・・じゃ、今から行くね!》

『・・・・え? どこに?』

《やだなぁ、大ちゃんが会いたいってメールくれたんじゃん。えっとね、30分くらいで着くよ》

『ここに?! だってパーティーは?』

《うん? てか、もう外に出ちゃった》

ヒロ〜? そりゃ会いたかったし、来てくれるのは嬉しいけど・・・・

『そんな・・・無理しなくても・・・』

《無理なんかしてないよ》

さっきまでとは、まったく違う落ち着いた声のトーンにドキッとさせられる。

《大ちゃんから会いたいなんて、100年に一度くらいしか言ってくれないからね》

『・・・そんなこと・・・』

《責めてるわけじゃなくて・・・そんな時に恋人のそばに飛んでいかないなんて男じゃないって思うじゃん?》

『そうなの?』

『そうなの! すぐに行くから待っててね、HONEY』

他の男だったら鳥肌が立ちそうな言葉も、ヒロだと自然に感じてしまうのは僕の欲目かな。

切れたケータイを見つめて、ニタニタしている今の僕は確かにハニー=i蜂蜜)かもしれない。




ヒロが来るんだよとアベちゃんに報告したら

『仕事は?』

あ・・・・・忘れてた。

大げさに溜息をつきながらも、アベちゃんは笑ってくれた。




今までの恋人に我儘いっぱいに振舞っていた僕も、確かに本当の僕なんだけど

それは、嫌われることが怖くなかったから。

僕の我儘を受け止め切れずに離れていくならそれでもいい、

我慢してまで付き合うことないって思ってたんだ。

でもね・・・・・ヒロは違う。

嫌われたくないから・・・・離したくないから、我慢することもある。

僕が我慢することで、ヒロがそばにいてくれるなら、ちっとも辛くないんだよ。

それどころか、ヒロのためにって我慢している自分が好きだったりするから・・・・

だからね、アベちゃん、心配しないで。




恋人が来るのを待つクリスマス。


そうだね、クリスマスも悪くはない・・・・かもね。







---------- end ----------





クリスマスってことで頑張ってみました。

とは言え、エッチくさくもなければ、甘々でもないんで、ご不満かもしれませんが。

本当の二人も幸せなクリスマスを過ごしてくれますように・・・・。

(タイトルにヒネリがなくてすみません;苦手なんです・・・いっそこのまま僕<Vリーズでも作るかな(^_^;)

                                 流花

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