*** always ***

 

 

それは昨年の夏ごろから、ずっとスタジオの隅に大切に飾られていたクリスタルのイルカ。

新しいスタジオに引っ越した時もダイスケの手によって運ばれて

再び、どこからでもよく見えて、それでいて簡単に落ちたりしない場所に飾られていた。

それが・・・・・・・・

 

ダイスケのバースデーをささやかながらスタジオでお祝いすることが決まり

ノリのいいスタッフたちが、スタジオ内の飾りつけをしている時だった。

椅子の上に立って作業していたスタッフの一人がバランスを崩して倒れそうになり、

思わず手を突いた棚が大きく揺れて、置いてあった楽譜や書類、ヌイグルミの一部が落ちて床に散らばった。

慌てて飛んできたダイスケが大きく息を呑む。

いつもなら、倒れそうになったスタッフを心配するはずのダイスケが床の一点を見つめたまま、途方に暮れたように立ち尽くしている。

ダイスケの視線の先を追ったアベは、そこに砕けたクリスタルの欠片を見てやはり何もいえなくなってしまった。

確かヒロからのプレゼントで、とても大切にしていたのは知っていたから。

ダイスケはゆっくりしゃがみ込むと欠片を拾おうと手を伸ばす。

『ダメ! 指切ったらどうするの。 私がやるから』

アベが制止して横から手を出しかけると吃驚するくらい大きな声でダイスケが叫んだ。

『触らないでっ!』

その声に周りのスタッフも動きを止めてダイスケを見る。

『ダイスケ・・・?』

 

 

昨年、ヒロがハワイで買ってきてくれたお土産。

ヒロの“恋人”になってから初めて買ってもらったもので、ダイスケはとても大切にしていた。

“ヒロ、ほんっとイルカ好きだよね”

ダイスケのからかい混じりの言葉に

“うん、大ちゃんの次にね〜”

そう言って笑ったヒロの笑顔を今もはっきり覚えている。

クリスタルのイルカに軽くキスをして、手渡してくれたヒロの瞳の色を忘れたことはなかった。

一生の宝物にしようと心に誓っていただけにショックも大きい。

 

 

申し訳ありませんっ・・・・と、青くなって謝っているスタッフに、大丈夫だと言いながらも笑顔を見せることは出来ない。

『ダイスケ・・・・・壊れちゃったものはしょうがないでしょう?』

欠片をひとつづつ摘まんでは手のひらに載せているダイスケはアベの言葉に返事もしない。

『ショックなのはわかるけど・・・・ヒロだってこんなことで怒ったりしないわよ』

アベが声を落として囁く。

ダイスケにだって そんなことはわかっている。

ヒロの気持ちではない、ダイスケの気持ちの問題だった。

 

最後に少し遠くに弾け飛んだ尾びれの部分を拾おうとして手を伸ばした拍子に

今まで集めていた欠片を また床に落としてしまう。

その瞬間、こらえていた涙が零れそうになり、ぎゅっと唇を噛む。

『おはよーございますっ』

突然のヒロの声にスタジオにいた全員がそっちを振り返った。

『な・・・なに?』

ダイスケのバースデーをやるからと呼ばれていたのに時間を間違えたのかと

その場で立ち止まったものの、棚の横にしゃがみ込んでるダイスケの顔を見て何かあったことを悟る。

『大ちゃん? どうしたの?』

声をかけながら、今にも泣きそうなダイスケの顔と床に散らばったクリスタルを見比べて、それが自分のあげたものだと気づいた。

ヒロは黙ってダイスケの手を取ると、アベに目配せして別室へとダイスケを引っ張っていく。

ドアを閉じたとたん、ダイスケの涙が溢れ出す。

『大ちゃん・・・・みんなに見られたら恥ずかしいよ?』

明るく言いながらヒロが長い指でダイスケの涙を拭う。

『みんなの前では泣いてないよっ』

少し膨れてそっぽを向くダイスケにヒロが笑う。

今にも泣きそうな赤い目をしてたくせに・・・・・あれじゃ見られたのと同じだ。

『ヒロ・・・・・・イルカが・・・・』

『うん、壊れちゃったんだね。あれ気に入ってくれてたの?』

頷くダイスケをその胸に抱きしめてヒロが “ありがとう” と囁く。

『だったら、お誕生日のプレゼント、イルカにすればよかったかなぁ・・・・』

呟くヒロにダイスケが苦笑いする。

ヒロが想像しているのとは別の意味で大切にされていたイルカ。

“イルカ” が気に入っていたわけではない。

“ヒロがくれたイルカ” だから大切にしていたのに、ダイスケの想いの深さはヒロには伝わっていない。

『あ・・・最初に言おうと思ってたのに・・・・・・Happy Birthday、大ちゃん』

そう言ってダイスケの唇に音を立てて軽くキスを落とす。

『うん・・・ありがと。 あまりおめでたいって年でもないけどね』

照れくさそうに笑うダイスケをヒロがもう一度、今度は強く抱きしめる。

『お誕生日はいくつになってもハッピーだよ。 運命の日だから』

『運命?』

『そっ、大ちゃんがこの日に生まれてこなかったらオレたちは出会ってないからね』

自信満々に言うヒロを見上げてダイスケが疑わしそうな顔をする。

『違う日に生まれてたら出会ってないの?』

『う・・・・・ん・・・・・・・・・出会ってた・・・・・かも?』

何、それ・・・と、ダイスケが声を上げて笑うのを見てヒロも嬉しそうに微笑む。

『プレゼント、ここで渡していい?』

『あるの?』

『あったりまえじゃない』

そういってヒロはポケットから小さな包みを取り出してダイスケに渡した。

『ありがとう・・・・・・開けていい?』

『もちろん』

大袈裟なジェスチャーでお辞儀するヒロにまた笑いながら包みを開くと中から銀色の指輪が出てきた。

どこかのブランドという感じではなく羽根をモチーフにしたシンプルなデザインのものだったが・・・・・

『これ・・・・・女性物?』

明らかに小さく見えるそれにダイスケが思案顔を向ける。

『てか・・・・小指用・・・・ピンキーリング・・・・・サイズ違ったかな?』

ヒロの言葉に、あぁ・・・と納得したものの、なぜ小指なのかダイスケには少し不満だったりする。

そんなダイスケの表情を読み取ったのか微笑いながらヒロがダイスケの手から指輪を取り上げた。

『あ・・・・・・?』

『薬指じゃなきゃ嫌?』

『え?・・・別にそんなこと・・・・』

言ってはいないけど、顔に書いてある。

『大ちゃん、左手出して・・・』

ヒロはダイスケの左手を取ると、ゆっくりその小指に指輪をはめる。

いつどうやって計ったのか、それはあつらえたようにぴったりだった。

『これ、プラチナなんだ。 いつまでも色が褪せないように・・・・』

そういって、小指に嵌まった指輪にキスをする。

指に当たる唇の感触がくすぐったくてダイスケは手を引こうとしたが、ヒロは離そうとしない。

『ここは・・・・・オレと繋がってる指でしょ? だから・・・』

『ヒロと? この小指が?』

『うん・・・赤い糸って小指同士繋がってるんだよね?』

『・・・・・僕とヒロの赤い糸・・・・繋がってるの?』

嬉しくて耳のふちをほんのり赤くしているくせに、わざと茶化すようにダイスケが微笑う。

『見えない? ここに繋がってるじゃん』

ここ・・・・といって見せたのは、もうひとつの指輪。

同じデザインのそれをヒロは自分の小指に嵌めると、手を広げてダイスケに見せる。

『人前では嵌められないけどね〜』

微笑うヒロとは反対にダイスケは泣き出しそうだった。

『ありがと・・・』

泣き笑いの表情のダイスケには、それだけ言うのが精一杯で・・・・・・。

その首筋にヒロはゆっくり指を這わせて抱き寄せるように唇を奪うと

口づけの温かさで氷が解けるように、ダイスケの瞳から雫が一粒、二粒と零れ落ちる。

その涙は再びヒロの指で拭われて・・・・・。

『お誕生日は来年も来るからね』

言葉の意味がわからずきょとんとしているダイスケにもう一度キスをして苦笑いするヒロ。

『わからない?』

頷くダイスケにまた微笑う。

『じゃ、来年までの宿題ってことで』

『えぇ〜! 何なの〜?』

食い下がるダイスケの頭をポンポンと叩いて・・・・

『ほら、顔洗っておいでよ。 みんな待ってるよ』

そう言ってドアを開けてしまったヒロに、もう何も言えなくなる。

なんだかうまく誤魔化されたような・・・・でも自分の小指を見て口元が綻ぶのを止められないダイスケ。

“まぁいいや、宿題ならゆっくり考えよう。 来年までまだ時間はあるから・・・・・”

 

 

 

---------- end ----------

 

 

 

 

ダイスケの想いの深さがヒロに伝わりにくいように

ヒロの気持ちもダイスケにはなかなか伝わらないようです(^_^;

頑張れ二人!・・・・・・・・てか私が頑張れ(笑)

流花

 

 

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