★ 貴方のいない誕生日 ★

 

 

『あぁ・・・・今夜はだめだなぁ・・・・』

行きつけの店でダーツをしていたヒロがぼそりと呟く。

ボードに刺さったダーツを抜くと、友人の待っていたテーブルに戻ってきた。

すっかり気の抜けたビールを一口飲んで顔をしかめると、新しい飲み物を注文する。

『どうしたの? 今夜は元気ないね』

テーブルで待っていた女性が少し心配そうに訊ねるのに、ヒロは微笑って応える。

『そんなことないよ。なんか調子がでないだけ』

注文したものがカウンターに置かれたので取りに入ったヒロは、それを女性の持っていたグラスと軽く合わせる。

『何に乾杯なの?』

彼女の問いかけに、ちょっと首を傾げて・・・・

『大切な人の誕生日に・・・』

そういって、もう一度グラスを上げた。

『そーいうこと?』

したり顔で女性が頷く。

『何が、そういうこと?』

『彼女の誕生日なのに振られちゃったんでしょ? だから元気なかったんだ? そっか、そっか・・・』

勝手に納得している女性にヒロが苦笑いを返す。

『なーんで彼女って思うかなぁ・・・』

『ヒロくんの“大切な人”って、女性以外思いつかないもん。違うの?』

『う〜ん、マキちゃん割と鋭いかも・・・』

『割と・・・は余計よ!』

ヒロより少し年下のマキは、この店の常連で何度か会ううちにいっしょに飲むようになった。

1年付き合っていた彼氏と別れてマキが荒れたときにヒロが自棄酒に付き合ったのは、つい最近の話だ。

『やっぱり本命がいたんだねぇ・・・・』

しみじみ言うマキに

『やっぱりって?』

どうしてそう思ったのかヒロが不思議そうに訊く。

『ほら、ヒロくんって、よく女の子とか連れてくるけど、どの子も1度か2度でまた別の女・・・でしょ。

その割りに彼女がいる余裕みたいなのがあるっていうか、愛されてる自信?』

ちょっと茶化してみせるマキの言葉にも、今夜のヒロはノリが悪い。

『愛されてるのかなぁ・・・・誕生日にも呼ばれないのに?』

自分で言った言葉に少し傷ついたヒロの微妙な表情を彼女は見逃さなかった。

『何拗ねてるの。 彼女仕事かなんか?』

仕事といえば仕事だけど・・・・・言葉を濁すヒロの額をマキが人差し指で軽く弾いた。

『いてっ』

『なーにウジウジしてんの? ヒロくんらしくないよ、ハッキリ喋りなさい!』

お姉さんのようなマキに笑いながら・・・・・でも寂しそうにヒロが応える。

『仕事のあとに仲間内で簡単なバースデーパーティーやるって言ってたんだよね』

『それには呼ばれなかったの? 女の子だけの集まり?』

あくまで“彼女”だと思っているマキの当然の質問にヒロは首を振る。

『そういうわけじゃないけど・・・・・なんていうか誕生日に呼ばれなかったってこと以前の問題かな』

『なによ、それ・・・』

『あの人、オレをどう思ってんのかなって』

その言葉に、マキはますますわからなくなってお手上げのポーズを見せる。

こんな愚痴みたいなこと話したくはないんだけど・・・・・と、躊躇うヒロにマキは私だって聴いてもらったんだからと明るく笑う。

 

『なんていうか・・・・あの人、オレにどこか遠慮してるとこがあって・・・・

ケータイにかけてくることも少なくて、かければよかったのにって言うと

“急にかけたら迷惑でしょ” って。 一応付き合ってるのにそんな風に考えるものなのかな。

バーベキューやったっていうから今度は誘ってねって言ったら “そうだね” って微笑うんだけど

きっと誘ってこないのはわかってる。あの人の顔に書いてあるんだよ “ヒロはそういうの好きじゃないくせに” って。

あの人の飼ってる大型犬だって “今度、会ってね” って自分で言うくせに絶対に連れてこない。

そりゃ苦手だけど会うくらいいいのにさ・・・・・・・・・もうちょっと我侭言って欲しいんだけど・・・・・』

目の前でマキがにやにや笑い出したのを見て、ヒロは言葉を止める。

『なに笑ってんの?』

『それってさぁ・・・・ノロケ?』

『は?』

『あのね、今の話をまとめると・・・・オレってこんなに大事にされてるんだよ・・・・ってことよね?』

そうなのか?・・・・今度はヒロが聞くほうに回る。

『彼女、ヒロくんのことがすっごく好きだから・・・・・嫌われたくないから遠慮してるわけでしょ?

“何回も電話してウザイって思われたらどうしよう”

“彼が好きじゃないことに誘ってつまらない顔されたらどうしよう”

“犬が嫌いだって知ってるのに会わせるなんて酷いこと出来ない”

“我侭言って嫌われたらどうしよう” 

ようするに、ぜーんぶヒロくんが好きなゆえ・・・・ってことじゃない。 なんの文句があるのよ?

バースデーパーティーだってヒロくんに気を使わせないようにって思って誘わなかったんじゃない?

どうせ彼女のお友達ばっかりなんでしょう?』

一気に捲し立てられて、ヒロも言葉が返せない。

思い当たることも多々あるし・・・・・でも・・・・

『でもさ、そんなんじゃオレはどうしたらいいわけ?』

マキが吹き出した。

『やだ〜、何恋愛初心者みたいなこと言ってんの?』

女の子の扱いには慣れてるようでも本命は別なのかと可笑しくてしょうがない。

『彼女が遠慮してるならヒロくんがガンガン攻めていけばいいじゃない。

そのうち彼女だって我侭言い出すようになるわよ、いつまでも大人しいわけないじゃん』

笑いながら言うマキに、大人しいってわけでもないけど・・・・と、ヒロが口の中で呟く。

『で、おめでとうの電話くらいはしたんでしょう?』

『・・・・・してない』

『なんで?!』

なんかわざわざ電話するのが照れくさかったからと言ったら、またマキのツボにはいってしまったらしく

“可愛い〜!” と叫びながら笑い転げている。

そんなマキを放って、ヒロはひとりカウンター席に移動するとケータイを取り出してメールを打ち始める。

きっと今頃、アベちゃんやスタッフに囲まれて上機嫌のダイスケの笑顔を思い浮かべながら・・・・。

*

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『あまり食べてないね』

もらったプレゼントの品定めをするかのようにテーブルに並べているダイスケにイトウが話しかける。

『そう? けっこう食べたよ、ケーキも食べたしね・・・』

そういうダイスケの前にある皿には半分以上の肉が残っているし、ケーキはほとんど口をつけていない。

そしてプレゼントを見ながらも視線がケータイにいくのを止められないようだった。

『タカミさん、呼べばよかったのに・・・』

ポロッといってしまったイトウをダイスケが上目遣いに見る。

『こんなパーティーに呼んでもヒロ楽しくないよ。気を使うだけだから・・・・かわいそうじゃん』

“こんなパーティー” を企画したイトウは苦笑いするしかない。

『タカミさんからプレゼント貰ったの?』

ダイスケの顔が見る見る曇って、イトウはまた失言したことに気づく。

その時、ダイスケのケータイにメールを知らせるライトが光った。

ダイスケはイトウを横目で見ながらも急いでケータイを手に取る。

メールを読みながら花が咲くように微笑うダイスケを見て、誰からのメールなのかは聞かなくてもわかる。

何回も何回もメールを読み直して・・・・・短く返信するとケータイをポケットに入れた。

『タカミさんでしょ?』

イトウの問いにダイスケは微笑いながら小さく頷くと身体を乗り出して彼の耳元で囁いた。

『もうちょっとしたら抜けてもいいかな?』

主役が抜けちゃダメでしょ・・・・・喉まで出かかったけど、ダイスケの嬉しそうな顔を曇らせたくはない。

もちろん、ダメと言って聞くようなダイスケではないのだけれど・・・・。

『大ちゃんの誕生日なんだから好きにしなよ』

『ごめんね〜』

幸せそうに謝るダイスケ。

メール1本でこれだけ幸せになれるダイスケが羨ましいような

メール1本でこれだけダイスケを幸せに出来るヒロが羨ましいような

複雑な表情のイトウだった。

 

 


 

 

Happy Birthday!楽しんでる?

今夜はみんなに大ちゃんを貸してあげたんだから12時過ぎたら返してもらっていいよね!

プレゼント付きタカミが今から迎えに行くよ。

時計は11/4で止めてあるから、二人きりでお祝いしよう!

OK?

*

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OK!待ってる

 

 

 

---------- end ----------

 

 

 

一応、お誕生日企画ってことで1本書いたのですが・・・・・・・「誕生日なのに会ってないってどーいうこと?」

そんなご不満タラタラの方(笑)は別バージョンの方でお楽しみください♪

(一応ふたりが会ってます・・・・・・って、会ってるだけかよっ;)

流花

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