奥様の悪阻

 

 

いつもとかわらないアインシュタイン。

俺はいつものように、アベちゃんの愚痴に適当に相槌を打ちながら相手をしていた。

 

 

「こんにちはー!」

 

静寂を破る勢いの声が聞こえて、思わずドアのほうを見た。

そこにいたのは、ここの主の人生のパートナーである貴水さん。

「あ、伊藤君久しぶりだねえ。元気だった?」

相変わらずハイテンションな人だ。

「ご無沙汰しています」

なんて俺が挨拶していると、アベちゃんが横から割り込んできた。

「ちょっと、私には挨拶なしなわけ?」

棘を感じなくもない口調に、さすがの貴水さんもタジタジらしい。

そりゃあ、まあ、ねえ。

 

「いえいえ、まさかそんな。いつみてもお綺麗でいらっしゃいますね」

さすが、貴水さん。歯の浮くような台詞も彼にかかると厭味に聞こえない。

しかし、アベちゃんの態度は変わらず、つっけんどんに言い放った。

「ちょっと、なんとかしてくれない?」

「?」

「いくら言っても、言うこと聞かないのよ」

「‥‥…? ああ、大ちゃん? またやってるの?」

「そうなのよ。責任もって引っ張り出してくれない?」

 

フッ、またしても俺にはわからない会話か………。

 

「わかった。行ってくる」

そう言うと、貴水さんは部屋を出て行った。

貴水さんから視線を戻すと、

「さて、じゃあ、私も戻るとするか」

そういうって、アベちゃんは広げていた書類を片付け始めた。

 

ああ、いつかのごとく俺は置いていかれるのね。

 

内心涙を流していると、アベちゃんが話しかけてきた。

「私戻るから、そのこと二人に伝えてくれる? って聞いてる?」

「え、はい。聞いてますよ」

「じゃあ、よろしく。見たくないものは見ないようにしないとね。こっちがもたないわ」

「はあ‥‥…?」

意味不明な言葉を残して、アベちゃんは帰っていった。

アベちゃんがいなくなったなあと思ったのと同時に、貴水さんが戻ってきた。

というか‥…。おいっ…………。

 

俺は目にしたものを疑った。

戻ってきた貴水さんは腕に何かを抱えていた。

抱えられているのは……大ちゃんっ???

引っ張り出して来いってアベちゃんが言ったのは大ちゃんのことだったのね。

でも、この登場はどうかと‥…(汗)

だから、アベちゃんはさっさと帰ったわけね。俺一人残して……。

 

「はい、到着〜」

お姫様だっこしたまま貴水さんはソファに座った。

「あれ? アベちゃんは?」

「事務所に戻られました」

「あ、そう。言伝頼まれたんだ。ごめんね」

「いえ」

会話を交わす俺たちを不機嫌そうな顔で見ている大ちゃん。

どうやら、ご機嫌斜めらしい。

貴水さんの前髪を引っ張った。

 

「イテテテ、大ちゃんどうしたの」

声を荒げるでもなく、やさしく応対する貴水さん。

俺には、できない芸当だ。といっても、大ちゃんみたいに可愛い恋人がいるわけでもないから必要ないけどね。(って、これ内緒だからね!)

「気持ち悪い」

そういって、貴水さんに大ちゃんは顔を埋めた。

あのお。俺の存在忘れてません?

いや、いつもだからいいんですけど……(哀)

 

「ここんとこずっと、飲まず食わずで、しかも寝てないんでしょ? そんなことしてたら、気持ち悪くなるに決まってるよ」

いつもと違って、強気な発言をする貴水さん。これも優しさなんだよねえ。

「だって‥‥」

「そんな焦らなくてもいいんだから。ね、前みたく倒れちゃったらみんなに迷惑かかるんだから。今日はゆっくり休もうね」

なるほどね。そういうことか。

 

ポンポンと頭を撫でられて、機嫌をとり直したかと思った大ちゃんは、やはり俺を驚かせるような事を言い出した

 

「僕がこんな苦しい思いしなくちゃいけないの、ヒロのせいなんだからね。気持ち悪くてご飯が喉を通らないの!」

 

………? あのお‥‥…‥‥…。

固まった俺の目前で繰り広げられる、新婚夫婦の会話。

八つ当たりに近い大ちゃんの言葉にも貴水さんは手馴れたもののようで‥…。

 

「そうだね。ごめんね、俺が悪いね。もうちょっとしたら、安定期に入るからさ、それまで我慢してね。ね?」

貴水さんが額にキスを落とすと、しょうがないなあって顔で大ちゃんもキスを返した。

「わかった。ヒロ、大好きvv」

「俺も好きだよ」

だから、俺のこと忘れてません? お二人さん(涙)

つうか、安定期ってどうなのよ?なに、本当に妊娠してるわけ?(動揺)

 

 

「さて、じゃあ、帰ろうか」

 

しばらくイチャついていた二人はどうやら帰るらしい。

「じゃあ、あとよろしくね」

そういって立ち上がった貴水さんは、大ちゃんをお姫様抱っこしたままだった。

「えっ、いいよ、ヒロ降ろしてよ!」

そのまま歩き出そうとした貴水さんに気づいて大ちゃんが暴れだした。

「いいからいいから。おとなしく抱かれてなさいって」

キスで抵抗を黙らせると、貴水さんは悠然と出口に向かっていった。

 

 

あいかわらずの二人だよなあ。

 

………―――――。

 

ところで俺はどうすりゃいいんだ?

 

 

***** end *****

 

 

10000ヒット記念のプレゼントとしていただきました♪

桜乃さん、ありがとうございますm(_ _)m

「大ちゃんは妊娠しているのではなく(当然ですが)、新曲をつくっているなかで産みの苦しみを味わっているわけです」

・・・・・・・・・・と、いうことだそうです(*^^*)

                          流花

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